飛べない鳥は落とせない 6
「反対に、生化学事業部門を拡大するとしたら、どうなるでしょうか」
マギーは正攻法でレイチェルに言ってみた。実際、マギーにもどうなるか分からなかったし、餅は餅屋である。下手な考え休むに似たり。昔の人は本当にいい事を言うものだ。
「はっはっは!……いやあ、そういう事ですか、マギーさん。……いやあ、それはトモミ社長の指示で?」
「マギーで結構です」
「じゃあ、私もレイチェルで。トモミ社長がそうおっしゃったのかしら?」
「いえ、副社長です……ネイザン・ジョーンズ」
ああ、とレイチェルの眼が納得した。え?何故にそれで納得?
「ああ、新副社長の……。そう言えば、ユージーンに聞かれましたよ、あの『ネイト』かと。なるほどね、彼も未練があるのかしらね」
少し悪戯心を刺激されたような、それでいて少し心が痛むような、何とも複雑な顔をレイチェルは一瞬して、そして完璧にマギーに微笑んで見せた。
「副社長ならば納得なのでしょうか?私はかなり意外に聞きましたが」
マギーが率直に感想を述べると、レイチェルは微笑んだまま、
「普通そうでしょうね、創業者一族ですからね。でも……彼は元々製薬会社にいたのよ。元カノが薬剤師で、本来は結婚の約束もしてたし、その彼女が鷹を飼いだして、私たちと知り合ったの」
ああ、『鳥さん』繋がりか。
マギーはまた外を見たが、今回は真っ青な空が見えただけだった。ちょっとがっかりする。がっかりする自分にもちょっと引く。どうなってるの、私?
「彼は全く自由に生きていたわ……むしろ自分の家柄を大っぴらにしたくなかったようでね。所作はお坊ちゃんだけど、一般のサラリーマンをやっていたわ。将来は彼女の家を手伝う予定で、彼女の部屋や、ご実家にも頻繁に遊びに行ってたから」
は?何と??一般人の元カノはただの繋ぎで、今の婚約者が本命なのかと漠然と思っていたが、本気で付き合っていたのか?将来はマスオさん?ジョーンズ家が許すとは思えない。
……ああ、そうか。それで、追い出されたCEOのこの事業を、継続させようとしているのか……。CEOの退任には、ジョーンズ家が絡んでいるし、自分も元カノも薬品業界出身だ……。
マギーはそこまで思うと、何だか違った観点からネイトを見れそうな気がした。
見れたとしても、どうってことはないが……。
それで私に、やりたい仕事は何だと聞いてきたんだ。
マギーの心に、何かがすとんと収まった。




