三年前 7
転職活動中、法律事務所に勤めている元同級生キャロル・ストロークに連絡をした。
彼女は、弁護士の秘書、法務秘書として働いている。
上司のいない秘書は、暇だ。マギーは、キャロルの勤務地近くに出向いて、ランチを一緒にした。
マギーはこれまでの騒動を話し終えると、そっと聞いた。
「ねえ、会社にいるのに雇われてない、って話あるの?」
キャロルは重々しげに、
「契約書があるなら、雇用されてるでしょう。だから、退職届も必要だし、給与も1か月分は保障されるんだもの」
「だよねえ。全くあの人事部長は、あほだ」
「でも、上司が部下の給与を支払うってのはあるのよ。会社としては必要ないけど、上司がどうしても人手が欲しい場合、上司が会社にその人手の給与を負担する代わり、会社が人を雇う、っていう方式がね」
「でもそれって、部下には知らされないわけ?私は何も知らなかったけど」
「マギーが全く知らないってのは、秘書として変だとは思うけど、一般には知らされる必要がないわよね、だって、マギーの給与を負担するのは、会社と上司の間の事だもの。だけど、上司の会社に転籍になってるって?」
「そうなのよー。そんな契約書見たこともないし、勿論サインもしてないもの」
「それは多分、偽の契約書を見せてるのかもね、上司が会社に」
「げっ。お金持ちで、ちょっと虚言癖あるとは思ってたけど、アブナイ人だったんだなあ」
「いいじゃない、辞めるんだから。その上司がどこへ移ったかは知ってるの?」
「教えてくれたけど、あの上司には一生再会するつもりはないよ。頭おかしいし、お金はあるから何でも揉み消せるんだろうけど、恐いよ」
上司は、マギーに金一封を差し出し、ある外資系の商社へ移ると伝えた。
マギーはおめでとうございます、と言って、菓子折りを彼に渡した。それで終わり。ハッピーエンドだ。
「携帯番号ももう消去しちゃった。私の人生から消去したいわ」
そう、そしてこのキララ紡績に採用が決まった時、マギーは自分の人生の新しい1ページをめくったのだと思い、期待をしていたのだった。
「私もそろそろ転職しようかなあ」
キャロルは憂鬱気に話し出した。
「なんで?」
「トレイニーがあんまりに頭悪すぎて、気持ち悪い」
キャロルの法律事務所に、新人さんが入ったのだそうだ。ところが、全てのミスを秘書に押し付けるので、精神的に参るらしい。
「今の若い子は無責任よね、学歴はあるけど、それにあぐらかいて何でも出来ると錯覚してるんだから」