従業員の都合 6
「ユミ、そろそろ具体的なお話をジョーンズさんから貰えるのかしら」
母と二人でゆっくりお茶をしていると、この話になった。お見合いして、おつきあいして半年ちょっとなので、確かに期限は近づいていると思う。
「まだ仕事が忙しいから日程は決められないけど、出来るだけ早く挨拶に来るって言ってたわ」
天気がいいので、屋敷の外の庭でお茶を楽しんでいる。後ろに給仕人がさっと母に代わりのお茶を注いだ。今日、母が飲むピッチは速いようだ。
「実は他の方からもお話が来てるから……ジョーンズさんがあまり乗り気で無いようなら、ユミにも考えてもらった方がいいかと思ってね。女性はあまり待つものではないわ」
「それはそうね、お母様。私もそう思うけど……でも、仕事に熱心な男性も素敵だと思うの。彼を応援したいわ」
実は実家を出て私が彼を養うんです、なんて真実は告げてはいけないのをユミは知っている。母は働いた経験もなく、家事も使用人任せ、ボランティア活動や旅行、社交活動で人生を楽しめる典型的な上流階級の奥様だった。
殊勝気なユミの言葉に何を思ったか、母はユミの顔をじっと見つめた。
「やっぱり、ジョーンズさんは変わり者過ぎたかしら。あちらのお兄様の方がよかったのだけど、弟を是非にと言われてしまって……」
それは今まで知らなかった。母としては、長男でもよかったらしい。きっとどちらでも構わないのだろう。兄さまの同級生だったから、面識もあるし。
「ジョーンズさんのお兄様こそ、仕事中毒だわ。結婚しても家に帰って来なさそう」
「ええ、つまりジョーンズ家を選ぶのが失敗かも知れないわ……。女性は賢くならないといけないのよ、ユミ。安定した実家に支えられ、夫にかしづかれてこそ、周囲が大切にしてくれるものなの。幸い貴女はベロワ家の娘なのだから、あとはいい夫を探すだけよ」
もっと真剣に婚活しろ、という母の言葉に、どっちもなあなあで手を打ったユミとネイトの関係がばれているのかと少しユミは首をすくめた。
「分かってるわ、お母様。結婚は女性にとってとても大切なものだもの」
「この頃の女性は理解していないわ……仕事の為に結婚を犠牲にするなんてとんでもない事よ。女性が働かなければ、男性がもっと雇用され、甲斐性のある男性が増えて女性は楽になるのよ。男の人って働くのが好きなんだから、そのままやらせておけばいいのに、最近の女性はつまらない事に意地を張って……」
そりゃあ専業主婦が楽しい貴女は苦にならないでしょうよ。
ユミは心の中で言い返した。
今時、『お嬢様の社会勉強』として、自分の系列会社で従業員となるくらいはどこの財閥でもやっている。数は少ないが、将来の後継者と目されている女性だっているのに、ベロワ家はそれを許さないのだ。




