従業員の都合 3
「そんな冗談おっしゃっても困ります、ネイト。私にとってお給料は大切なものなんです」
「本気だよ、マギー。私は婚約者がいてね、近々結婚するんだ」
「結婚と退職が何か結びつくのでしょうか」
「分からないのか?寿退社だよ、勿論。結婚後はユミに……私の婚約者だが、彼女が働くから、私は困らないんだ」
今だって困らないと思いますが、と皮肉の一つも言ってやりたいマギーだったが、それよりも『寿退社』に反応してしまった。
「そんなの!婚約者さんが……ユミさんが反対すると思います」
にまーっとまたネイトは笑う。腹黒っぽいのは否めない。
「彼女は働きたいが実家が反対している。私がこの仕事を辞めるのは実家が反対だ。結婚すれば双方とも実家を出て、自分の好きに出来るわけだ。反対するわけないだろう。とにかく、こう言った事はタイミングだ。貴女も海外に関係のある仕事をしたいなら、今のチャンスをつかむことだ」
やりたい仕事……?
そんなのとっくの昔に諦めていた。
外国に興味を持ち始めたのは……多分小学校1年生の時だ。クラスの男の子が、家族旅行でハワイに行ったと言っていた。その当時、首都ハイランドは、外国人を見かけることが全くなかった。『ガイコク』という物が存在することを始めて実感した。でも……。
海外に行くという夢は、結局在学中には叶えられなかった。中高で留学した人は何人かいたし、大学でも交換留学制度がいたが、実家の両親は許してくれなかった。海外は危ない、女の子ひとりでは駄目だ、というのである。
何とか就職をキララで決めて、ようやく実家を出て一人暮らしをし始め、マギーは初めての海外旅行へ行った。
お金さえ貯められれば、旅行に行ける。そう思ってやって来たのも事実。
今更好きなことをやれと言われても、一切思い出せないし、何も思いつかない。
マギーはまた窓の外を見たが、ヘンな鳥さんは建物から離れたらしく、マギーの位置からは見えなかった。




