会社の都合 14
ネイトは『キララ○○』に全く関心がなかったが、両親や兄の手前、それを口に出せなかった。
しかし、マギーを何となく眺めているうちに、新しい業務の構想が浮かんできた。これは……何だろう?自分でも分からない思考だ。
ネイトはほんの少しの躊躇いを、さっと追い払った。
「君、いや、貴女の経歴を見させてもらったんだ。貴女はCAPを持っている」
……マギーは何の話になるのか、とネイトの表情を探りながら答える。
「ええ。再認定まで、あと2年くらいあると思いますが」
CAPとは米国の秘書資格であり、5年ごとに再認定が必要で、継続講習が求められている。
「IELTSのバンド5.5……。留学可能なレベルだ」
「ええ。お金がなかったので独学で英語を勉強しました。結局留学には行きませんでしたが、何かに残しておきたくて、イギリス系のIELTSを受けたんです」
学生時代、友達が羨ましかった。彼女たちは、実家の援助を受けて、海外へ留学、航空会社や外資の大手に就職していった。移住した子もいる。一般のサラリーマン家庭、保守的な首都で生まれ育った自分には、そんな機会はなかった。
「外資系の勤務経験もある」
「はい。総務経理部長の秘書とアシスタントでした。10年以上前ですが」
年齢を計算するなよ、とマギーは無言の圧力をかけるが、ネイトがどれだけ堪えたかは残念ながら疑問である。
まあ別に、10歳年下の上司には関係ないか、とマギーも気を取り直し、
「私、かなり年寄りですので」
「そんな事は言ってない。マギー、貴女は実は国際部門に興味があるのじゃないかな。本当は、商社に勤めるか、または海外勤務をしたいんじゃないか?」
おお、図星?
マギーは目を瞬かせた。転職を考えています、って告白すべき?
というのは、独身嫁き遅れOLの言うべきことではもちろんない。
「私は今の会社に満足しております」
「直球で言わないと駄目なようだな。……まあ確かに、私の第一印象が悪すぎたんだろう、どうせ」
「……」
「そんな事は慣れている。どうせジョーンズ家の人間だと思われている、当たり前だ、事実だし」
そこで言葉を切り、ネイトはマギーを見据えた。
「貴女は、ユージーンと話が出来た。彼は鷹の飼育ではかなり有名人でね、変人といっても言いくらいだ。それに何より、貴女はあの『鷹』を知っているだろう」
「た……鷹ですか?あの、ユージーンさんは偶々秘書仲間として話が弾んだんです。鷹って……私飼った事ないからよく知らないし、見たことがあるのは、窓の外にいるあの鳥さんくらいです」
「あの鳥……足を伸ばして飛んでいる鷹の事だろう?」
「そうです!とっても優雅に飛んでいるんです!」
ネイトは目を細めた。
「……あの鳥は貴女を気に入ってるんだ……。わざと気づいてもらえるように、近くを飛んでいるんだよ……」




