会社の都合 12
「鷹は頭がいいそうですね。昔から人間と共存してきただけありますね」
アランは続ける。
「ええ。中途半端な人間より、よほど役に立ちますよ。しかも可愛い」
ネイトも続ける気だ。
「エサは生餌ですか?ミミズとか?」
「いや、釣りではないので……。訓練用なら、ルアーで十分なんですよ。単なる食事なら、生肉をやって、栄養剤を食べさせればいいんです」
「実戦用に本物が要らないなんて、想像力が豊かなんでしょうねえ鷹は」
「シュミレーションで実践できるから、効率的なんですよ」
さあ、マジックワード。『効率』ですか。
マギーは心の中で突っ込んだが、それを口に出すほど正直者でもない。沈黙は金である。
「人間も想像力がありますから……。ま、商品別の売り上げデータは、工場の伝票から追跡してみてください」
アレックスにアランが伝えると、アレックスははあ、と一言ようやく答えた。
こう落とすのか。
トモミもふふ、と笑って、
「取り敢えず基礎データが必要なの。あまり予想外の結果が出る様だったら、他に考えるけど、何か数字が必要なのでね。よろしくお願いします」
経営陣や管理職はどいつもこいつも狸と狐、海千山千の猛禽類だ。
こういう人たちに仕えるのは慣れているが、同じ土俵で仕事をするとなると、本当に面倒くさい。利害関係や好き嫌い派閥争いなんて言葉ではくくれない、様々な人生が交差してくるのだ。
しかもこのキララ紡績は、社長退任時から、『サバイバルゲーム』のゴングが鳴らされている。組織改編という名の、首切りゲームが始まっているのである。
マギーは途中棄権をするつもりだが、転職先が決まっていない今は、退場にはまだ早すぎる。何とか首をつながなければならない。しかし、秘書という身分柄自分の持ち駒はなく、上司に左右されるだけの不安定な身分だ。
会社の都合で見事振り回される我々サラリーマン(とOL)。何としてでも保身しなければいけなかった。




