会社の都合 5
結局、マギーは三社すべてに訪問できた。受付で突撃してみると、案外中にすんなりと通されるものなのだと知った。しかし、それはビジネスの話ではないからだろう。
最後に訪れた代理店もそうだった。
明らかに新人の男性が、訳わからないなりに、にこにこと応対はしてくれる。
「御社とはおつきあいも長いですし、これからもぜひお願いできればと思っています」
男性は、ユージーン・ハモンズと名乗った。
マギーもうなずいて、
「新社長は、元々弊社の副社長でしたので、営業方針も変更ありません。何かリクエストありましたら、直ぐにお知らせください」
茶番である。
マギーは家賃光熱費のため、ユージーンは(多分)新人研修のため、お互い応接室で時間をつぶしている。三件目ともなると、マギーもかなりの余裕だ。
「ハモンズさん……も、秘書室なんですね?」
戴いた名刺をマギーはじっくり見て、ようやく話のきっかけが作れたと感じた。ユージーンも同じ意見らしく、
「スレイターさんも秘書室なんですねえ。勉強させてください。僕は元々庶務部にいたんですが、先月秘書室に異動したばかりです」
やっぱり新人だったか。
マギーは自分の観察眼が鈍っていないことに満足して、こんな茶番切り上げたくなった。が、これは仕事である。
「ハモンズさんは、今誰かについてるんですか?それともチーム全体を見ているんですか?」
「僕が言うのもなんですが、理由が分からないんですけど、社長付です。でも第四秘書です」
「いきなり社長付ですか?それはすごい事ですよ、ハモンズさん。私が勉強させてもらいたいくらいですわ。ぜひ頑張ってください」
「僕の担当は、荷物持ちですね。あとは、手紙の管理です」
「ああ、開封したりファイリングしたりですか。あれは結構面倒ですね」
「庶務部の時と同じ事やってるんですけど、宛先だけ違う、というか」
その後延々と秘書業務の話が続いた。まさか秘書の話でミーティングが盛り上がるなんて思いもしなかったが、マギーにとってもユージーンにとっても、実り多い時間だったようだ。
二人は再会を約束し、携帯電話番号も交換した。勿論、仕事である。




