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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
52/172

会社の都合 5

結局、マギーは三社すべてに訪問できた。受付で突撃してみると、案外中にすんなりと通されるものなのだと知った。しかし、それはビジネスの話ではないからだろう。

最後に訪れた代理店もそうだった。

明らかに新人の男性が、訳わからないなりに、にこにこと応対はしてくれる。

「御社とはおつきあいも長いですし、これからもぜひお願いできればと思っています」

男性は、ユージーン・ハモンズと名乗った。

マギーもうなずいて、

「新社長は、元々弊社の副社長でしたので、営業方針も変更ありません。何かリクエストありましたら、直ぐにお知らせください」


茶番である。


マギーは家賃光熱費のため、ユージーンは(多分)新人研修のため、お互い応接室で時間をつぶしている。三件目ともなると、マギーもかなりの余裕だ。

「ハモンズさん……も、秘書室なんですね?」

戴いた名刺をマギーはじっくり見て、ようやく話のきっかけが作れたと感じた。ユージーンも同じ意見らしく、

「スレイターさんも秘書室なんですねえ。勉強させてください。僕は元々庶務部にいたんですが、先月秘書室に異動したばかりです」

やっぱり新人だったか。

マギーは自分の観察眼が鈍っていないことに満足して、こんな茶番切り上げたくなった。が、これは仕事である。

「ハモンズさんは、今誰かについてるんですか?それともチーム全体を見ているんですか?」

「僕が言うのもなんですが、理由が分からないんですけど、社長付です。でも第四秘書です」

「いきなり社長付ですか?それはすごい事ですよ、ハモンズさん。私が勉強させてもらいたいくらいですわ。ぜひ頑張ってください」

「僕の担当は、荷物持ちですね。あとは、手紙の管理です」

「ああ、開封したりファイリングしたりですか。あれは結構面倒ですね」

「庶務部の時と同じ事やってるんですけど、宛先だけ違う、というか」

その後延々と秘書業務の話が続いた。まさか秘書の話でミーティングが盛り上がるなんて思いもしなかったが、マギーにとってもユージーンにとっても、実り多い時間だったようだ。


二人は再会を約束し、携帯電話番号も交換した。勿論、仕事である。


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