三年前 5
レベッカはマギーの顔を見てにっこりした。
「そうなんです、マギーさんの採用を決めた次の日にですね。退職届を出して、次の会社が30日分の給与をキララ紡績に払って、当日退職されました」
「なるほど。かなりいい条件での引き抜きですね」
そうなのだ。ここマニューでは、転職が国民の『趣味』の一つであるから、通常1か月前や3か月前の通知義務を課してもあまり意味がない。その当日に辞めるなら、単に1か月分や3か月分の給与を会社に払えば、事前通知とみなしてもらえるのである。
次の会社が理解あれば、その給与を自分ではなく、次の会社が支払ってくれる事もある。
いいなあ、いい転職したなあ。
マギーは元予定の上司を羨ましく思った。
レベッカは、にこにこと続ける。
「経営陣としては、今会社組織を改編しているので、このままマギーさんに来てもらって、新体制での補佐をしてもらえないか、と提案があったのです。それがこの配置図なのです」
これは……
国内外の営業部門と、マーケティング部門、商品企画部門、が社長直轄に。
カスタマーサポートと、IT部門、経理人事、総務法務室が副社長兼理事に。
商品管理と国内外の工場は、業務管理部門長兼理事に。
そして私は、秘書として、この3人、社長、副社長と理事を補佐。
……これは、いい話?
悪い話?……よく分からない。
しかし3人の秘書か、一人で。
「体制が出来次第、契約の人をマギーさんにつけて、二人で秘書室をまわしてもらうそうですが、とりあえず、マギーさんの所属は総務法務室で、肩書は副社長秘書です」
「それは……当初の部門長付きよりも、大きな責任ですね」
この肩書は悪くないかも。瞬時に頭の中で、キャリアプランを描きなおす。うん、ここで副社長秘書になっておくのも、悪くないか。
……もっとも、会社がすぐ潰れちゃ話にならないんだけど。