おしゃべりなのは 9
墓に穴を掘る、と書いて、墓穴を掘る、略してぼけつ。
藪をむやみに叩いて、そっと隠れていた蛇に襲われる、というのはやぶへび。
マギーの心の中に浮かんだのは、その七文字。
……その言葉を待っていた?何それ?人が折角心配してやったのに、とっととその責任を私に押し付けるなんて。
しかも、取引先訪問?
確かに、前々職までは、接待のアシストもしていたから(秘書業務は大変なのだ)、全くできないという訳ではない(と自分を信じたい)。
だけど自分は営業ではないんだけど。それに名刺が……。
いや、名刺はあった。三年前、トモミ社長が絶対に必要だと言ったので、仕方なく作ったものが。さて、どこにやったっけ?
リッキーが心配そうにメッセで尋ねてきた。
「どうしました、マギーさん?変人に何か言われました?」
リッキーの頭の中では、ネイトは変人だという確信が信念に見事なったらしい。
「明日の朝、取引先に行けって。一体どうなってんだか」
「えええええ。それってどういう事なんですか?」
「それは私が知りたいわ」
そして三十分後、11時過ぎに、ネイトからプレゼン資料として、パワーポイントが来た。三ページしかないので、軽い。
ところが、添付されたメッセージには「各訪問先別に、その会社の営業成績と会社概要を1ページにまとめて、印刷して持ってきてくれ」とある。あいつー。
あと1時間もないのに、こんな細かい指示を今するとは。
しかし、正論ではある。今回の20件は、全て初めての訪問になる。先日はアラン理事がいくつか案内していたけど、言ってみれば『優良』取引先への訪問だった。でもこの20件は、少し、いえ、かなり難あり、だ。
会ってくれる、というだけでも、本来は幸運な感じ。何しろ、前社長がらみ。その前社長は、今はインドネシア。いったい何なんだと噛みつかれる可能性だってある。
ネイトは無表情だけど意外と豪胆な性格なのかもしれない。




