おしゃべりなのは 8
「三件?」
「はい」
この確認の声は、否定だろうか。マギーの胃が少し痛む。しかし、電話のネイトは、
「わかった。三件は私が受付まで自分で行ってみるので、君は何もしなくて構わないから」
そ、それは……。
私の準備行動と判断を疑っている、って事になるのでは?
貴方の真意は?
ごくっと息をのむと、マギーはそのまま続けた。
「分かりました、有難うございます。電話を取った人間と取引先の名前、住所をそちらにメールいたします。あと5件は、明日の午後確定でよろしいですね」
「構わないよ。車は?」
「はい、本日午後12時から明日の午後7時半までは押さえてあります」
「それでいい。結構だ」
そして内線通話が終わる。
またつまらない気持ちになる。
転職しようと思っているし、CVの更新も始めている。でも、副社長自らアポなし訪問など聞いたことがない。自社イメージを考えれば、例えば他の人間を充てるなど、何か対策があるのではないか。
ふと窓を見ると、3羽の鷹(多分)が悠々と空を浮かんでいるのが見える。
そう、飛んでいるのではない。翼を動かさず、ただ気流に乗っているだけで、『浮かんで』いるのだ。
本当にかっこいいな、と思い、また、先日夜に出会った親子の事も思い出す。鷹だって、外出訓練がいる。
何事も、勉強して、練習して、自問自答して、色々躓きながら、前に進むものだ。
そうしてようやく「格好いい」姿を大衆にさらしているのだ。
生まれ落ちたその時から、『鷹』の人間なんてほとんどない。
ほとんどの人間が、迷いながら学びながらどこかへたどり着く。
マギーも、思い到った。
もう一度内線をかける。
「副社長、たびたび申し訳ありません」
「ネイトでいいよ」
「はい、3社の件なのですが、新任の副社長がアポなしで訪問するのはかなりのリスクです。誰かほかの人間を手配できないでしょうか」
「私は、リスクを負えると考えているんだが、マギーは違うのか」
「いえ、出来る出来ないの話ではなく、ウチのような歴史ある会社が、準備なしに出向いたとあっては、メディアも食いつく可能性があります」
「……それはそうだ」
「ですので、他の人間を行かせるのも悪くないと思います」
「……その言葉を待っていたよ、マギー・スレイター。じゃあ君がその3社に出掛けてくれ」
「は?」
「会えなくても構わない。明日朝9時半から3社回るように。申し訳ないが社用車は私が使うから、地下鉄とバスを使ってくれ」
「……分かりました」




