三年前 4
だけど、今度は自己都合で、転職活動を始めるんだから、あの時よりははるかにましだろう。
マギーはふとカレンダーを見た。今回はどれくらいの時間を掛けたら、次の転職先が見つかるのだろうか。
三年前の8月……
受付前のソファで、じりじりと待っていると、長髪を緩くカールさせた、小柄な女性が近づいてきた。彼女がレベッカだった。
「キララ紡績にようこそ。マギー・スレイターさんですね。人事のレベッカ・ソウです」
「はい。マギー・スレイターと申します。これからよろしくお願いします」
「こちらへどうぞ」
入ったのは、小さな会議室。
「マギーさんは、首都ハイランド市の出身ですよね。私、何度も旅行に行ってます。とても素敵な街ですよね」
「素敵な場所ですが、首都としては人が少なすぎますよ」
観光以外、大した産業がない、ハイランド市。経済の中心は、明らかにここキララなのだ。
「キララ紡績にも、ハイランド市へ旅行するのが好きな人たちがいっぱいいますよ」
レベッカは、このまま下手すると旅行の話を延々と続けそうだ。マギーの心の中の不安がまた大きくなった。
「そうなんですか」
「ええっと……この書類をどうぞ。仕事内容です。今社内は組織改編をしていまして、マギーさんの業務も面接時とちょっと違うんです。これから説明しますね」
違う仕事?こ、この会社、人をなめてるのか?
マギーは能面のような表情を崩さないようにしつつ、心の中であきれる。やっぱり、ブランクがあるのは困るからここに決めたけど、このまま転職活動をつづけた方がよさそうだ。潰れるかもしれない。
キララ紡績自体は、キララ取引所の上場会社で、約200年ほど前に設立された歴史ある会社である。前身はキララ造船で、この造船部門は、50年くらい前にM&Aされて他の会社になった。紡績部門は元々独立していたが、造船会社所有だった本社ビルと、アバディーンにある鉄工所を貰い受け、名前をキララ紡績とした。
……というのが、面接前に仕込んだ会社概要。
そして私の仕事は……
マギーはレベッカから手渡された書面を眺めた。
レベッカが、
「元々は、国内外の営業部門とマーケティング部門を統括する部門長付になってもらうはずだったのですが、彼が辞めてしまって……」
「あの、面接でお会いした上司になる予定の方、がですか?」
マギーは記憶の片隅で、二次面接で対応した一人がいたのを思い出した。あれが辞めた?