おしゃべりなのは 2
アランはじっとネイトの資料を眺めていた。
確かに。
そっと次ページへと画面を切り替える。
独立。
ケイトからは、事前にメールが来ていた。「辞める。辞め時だ」と。
困ったものだ。昨年の実績は、子会社の売却益で得たものだというのは、周知の事実である。言わせてもらえば、工場は稼働できるし、注文もあるのに、それを受けてこなかった営業部の責任が一番重いはずだ、と彼は思ったのだが……。
トモミ・スミス副社長が社長となるなら、営業部門への叱責はない。
だとすれば誰が一番標的になるのか。それは、財政を預かる経理部門だろう、というのがケイトの読みだった。
しかし、ネイトは。
アランは知らずに顔をしかめた。
あのお坊ちゃまは、管理部門へと責任を押し付けてきた。自分で非採算部門から黒字部門へ転換しろ、と、そういう訳だ。
それを読んだのか、社長はネイトへ管理部門を預けた。つまり、自分は生き残ったことになる。これは、どういう事だ?
総務法務室とは、つまり、法的な対処はすべてアランがやれ、という事だ。自分の事は自分で始末するという、ある意味トモミ自身の哲学はそのままだ。
結局リストラをするのか……。アランは複雑な心境だった。
そして、社長が総務法務室へと入って来た。
「早いですね、トモミ社長」
「トモミで良いわよ、アラン。新しいポジションはどう?」
「おかげさまで、早朝出勤をせざるを得ません。朝7時から職場にいるのは新鮮ですね」
只今、8時である。
「それだけ口が動けば結構。で?」
トモミは全く動じなかった。
「悪くないでしょう。進めるのならば、経営陣は、キララ紡績付きにして、後はすべてそれぞれの子会社に所属すればいいでしょうね」
「そう、貴方がそう言うならば、大丈夫でしょう」
「初年度は、全く同じ文面で、雇用契約を結びます。しかし、次年度から、まずは対外的な諸経費を新子会社で取り扱います」
「なるほど。そうやって、心理面で、従業員の負担を減らすのね」
「そうです。いきなり独立採算では、出来る人材ほど逃げます。次年度は新子会社名で請求を受け、支払いをしていきます。そして、次の年は、いよいよ名刺も名義を変える。これでいいでしょう」
「3年必要ね」
「あのお坊ちゃまが、3年待てますかね」
アランが少しとげとげしく言うと、トモミもにやりとした。
「待てないでしょうね。でもそれは我々の管轄外だわ」




