白金と銀 9
一息入れた後で、明日からの作業を確認し合い、アラン室長とリッキーは法務総務に残り、マギーとネイトはともかく副社長室へ、ケイト部長も人事部門と居残りとそれぞれに分かれた。
こいつ、まだ黙ってる気なのか。
マギーの殺気に気付いたか、ネイトは先に言葉を発した。
「もしハイランドに帰るのなら、力を貸そう。キララ造船の事務所もある」
「は?」
いつ私が異動願を?
「ご両親にとってみれば、最愛の娘さんをいつか手元に返してもらいたいと思うのは当然だ。私が結婚して、子供がいたとしても、一緒に暮らしたいと思う」
ちょっとは仕事ができるかも、このお坊ちゃま、と考えた自分が馬鹿過ぎたのか、とマギーは一瞬自分自身にむかついた。
「は……い。ご配慮いただき有難うございます。ただ、私自身は未だ戻る予定もありませんし、多分両親も期待してないのではと思います」
「そうか。では何故ここにいる?」
は?
生きるため、でしょう、お坊ちゃま?
沈黙は金、しかし、雄弁が銀とも限らない。マギーは心底から、ふん、と鼻を鳴らした。
「キララ市は、求職数が違います。ハイランド市に帰っても職がありません。第一、そんな事を考えて何になるのでしょうか。ネイトは、首を切りたいのでしょう?私こそ、どんな基準で他人を解雇するのか、お伺いしたいくらいです」
久しぶりに「鼻で笑った」相手が珍しいのか、ネイトも語調を強めた。
「150人なんか大したことない、前社長の息のかかった関係者を数えればすぐだろう。正直、彼らは私の所へ媚びを売り始め、効果がないと分かれば半年以内に去って行く連中だ。それを少し早めるだけで、別に大したことじゃない。今質問しているのは、あなたのキャリアプランだよ、マギー。45歳にもなって、あと15年間どう過ごすのか、まったく気にしてないとでも?」




