白金と銀 8
引継ぎのためのミーティングや、細かい打ち合わせはこの一日で終わらせ、次の日から無理にでも実務を始める、という、トモミ・スミス社長お得意のOJTプロジェクト(仮題)が敢行され、流石のアラン部門長も、いえ、室長も、疲れを含んだ声になった。
「お茶にしましょう」
リッキーに頼んで、簡単な軽食とポットのコーヒーと紅茶を用意していた。もう、午後4時である。
朝9時半から、メモを取りっぱなし、昼食も立ったままだったマギーとリッキーも、ようやく一息ついた。
朝から社長だけ元気で外回りをして、直行直帰するとの事だったので、社用車の手配だけ朝一で行い、そのまま放っておけたのは幸いだったが、ネイトが何も言わない分、マギーが自分で質問したり、確認したりしなければいけなかった。
もしかしてボクシングやってたのかしら、とマギーは横で(今度は)紅茶を選んでいるネイトを観察する。
多少の筋肉はあるようだが、細いと言えば細い。
アラン室長の方が、筋肉質で、大柄だ。彼は、確かブラジリアン柔術をやっていたはず。
ネイトはネイトで、今日一日の作業を思い返しつつ、側でカップケーキを迷わず口に入れているマギーを観察していた。
ちょっと童顔で、実はほぼ同い年と言っても通るくらいだ。少しふっくらしているのは、食べることが好きなのだろう。今日は質問の仕方を見ていたが、見た目より考え方は成熟している。ずっと秘書のようだが、法務か人事でも悪くないようだ。
でも実家がハイランド市なら、そっちにいつ帰ってもおかしくないだろう。
それが、ずっと秘書職に留まっていた理由なのだろうか。
実家に帰る人間を、教育する趣味はないな、とネイトは判断した。




