沈黙 6
「新しい職場はどう、ネイト?」
ひとしきりおしゃべりして、ユミ・ヴェロワはネイトに尋ねた。只今、二人はリー・ド・ボーをつついている。
「そうだね、やっと部屋が片付いたよ。ユミも来ればいい」
「嫌だ……。私そんなに独占欲強くないと思う。職場でのあなたも格好いいとは信じてるけどね」
「特に変わりはないと思うよ。そうだ、紡績だから、工場回りがあるかな」
「頑張ってね、きっと大丈夫」
「有難う」
ユミは、ネイトの兄の同級生の妹だった。現在は家事手伝い、実家はキララ造船の大株主の一人で、勿論兄は二人の結婚を望んでいる。
そしてネイトも……。
食事を終えて、部屋に戻り、机に戻った。
窓越しに、リッキーとマギーが見える。二人はあまりおしゃべりすることなく、PCに向かっているように見える。
リッキーはメッセをマギーに送った。
『誰様こっち見てますよ』
マギーははっとして、背筋を伸ばし、立ち上がった。
「行ってくるわ」
そして、ネイトの部屋に入り、用件を尋ねた。
「失礼します、ネイト。何かご用でしょうか」
別に何もない、と言うのがネイトの答えなので、彼は黙った。
マギーは二三度瞬きをし、そして口元に笑みを浮かべ、
「……特になければ、失礼いたします」
と言って下がった。
『すみません、マギーさん。まさかあいつ、単に眺めている変態だったなんて!』
リッキーからのメッセが光る。
『大丈夫よ。色々な上司がいるから……。だったら社長の案件を優先するまで』
『素敵です、マギーさん!』
社長秘書として、ええ、自分の今までの過去をご破算には絶対にできない。そうマギーは思って、耐えることにした。
内線が鳴る。
副社長室の内線が。
ネイトは無表情のまま、それを取った。
「はい、ネイトですが」
「今すぐ部屋に来て頂戴」
スミス社長からだった。
ネイトは、物憂さそうに立ち上がり、そしてマギーたちを一瞥して、社長室に入った。




