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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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レベッカとリッキー 1

アラン室長が異動してしまい、アレックス副室長ももうすぐ退職するとのことで、トモミ社長へ直にメールを送る立場になったのがレベッカだ。

秘書室長のマギーは造船本社への異動を断ったらしいが、レベッカは自分の行き先が分からなかった。


……長い人生のうち、こう言う事もあり得る。


レベッカは自分で自分を慰めてみる。上場企業であるキララ紡績が、元のグループ企業だったキララ造船の一部門となるなんて、数年前には考えられなかった。入社当時は、10年くらいは居られるものと算段していたのだ。


それがまあ、前社長と経理部長のダブル不倫の(他の理由もあるのかも知れないが、少なくともレベッカはそう考えている)スキャンダルを隠し通すために経営陣が知恵を絞ったのが『キララ紡績を潰すこと』だったのだから、馬鹿げている。


だからレベッカはもう迷わなかった。

幸い母親の知人が会社を立ち上げるという。そこで、給与半分で働ける総務の人間が欲しいのだそうだ。実家住まいでレベッカは特に生活費に困ってないし、母親の顔を立てるのも親孝行になるかと考え、承諾した。


スキャンダル回避の為に、会社を丸ごと潰すなんて。

従業員も大勢辞めた。工場だって稼働してない。

それでも、上場企業だからと体裁を繕おうとする経営陣たち。トモミ社長は個人的にはいい人だとは思うが、やっぱり会社の為に人生を捧げる企業人だ。副社長は単なるオーナー家族出身だし、アラン室長も割を食ったとは思うが、造船で元の工場部門へ戻ったのだから、上手く立ち回れる人だったのだろう。


自分はそんな人間にはなれない。なるつもりもない。一か月前に退職届を出した時はすっきりした。

退職日間近には、ランチを誘ってくれる人もいたけれど、すべて断った。

退職日当日、社長へ挨拶し、秘書室長のマギーへ机の鍵やアクセスカード、名刺を返還して、「お世話になりました」と去った。マギーが「残念ですが、レベッカさんの更なるご活躍を祈念しています」と言った時、流石にバツが悪そうな顔をしていたのが印象的だった。彼女が入社時に、世話をしたのが自分だったと思うと、何だかレベッカはもやもやした。彼女(マギー)もプロジェクト・ラブの推進者だから、この結果には責任がある。それを自覚しているだけましなんだろうか。それとも、実は経営者みんな自覚していて、それでも自分の取り分を主張して保身に回っているんだろうか。いや、もうやめる会社の事なんかどうでもいい。


アレックス副室長も辞めると聞いた。そうだろうな、あの人はあまり好きじゃなかったけど、会社を見限るのは正解だ。


マギーは自分の入社当日に、時間より遅れて現れたレベッカを見て会社について不安を覚えたことを思い出しただけなのだが、レベッカ自身は思い至るはずもなく、結局この二人が在職中理解り合えることはなかったのだ。


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