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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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ライフプラン 18

「だからまあ、この件は造船へ渡そう」

ネイトは少しため息交じりにマギーへ言った。彼自身少し納得のいってなさそうな、それでも笑顔を保っているような。

マギーもため息をついた。

「……アランも結局前社長たちを見逃したんですね」

「その点は分からないとしか言いようがないな……実は私もキララ紡績(ここ)への異動はケネス社長から突然の内示でね……。来てみて、ようやく事情が理解った次第なんだ。まあ普通公には出来ないさ、造船をキララグループの核に据えようと動いている時に、系列会社の紡績のトップが横領なんてね。むしろ元社長やケイトが海外へ移住してくれて好都合だろう。彼らに何かしゃべられたら、プロジェクト・ラブも頓挫しただろうからね」

「その点は……感謝しなくちゃいけない、って事ですね」

「もしかして海外へ行くことを条件にしたのかも知れないが、とにかくコミッションの横流しについては証拠がない。写真は合成かも知れないから証拠としては弱いし、これを撮影した従業員は今はそれなりの会社に再就職できているそうだ。だから……」

ネイトはしっかりとマギーの眼を見つめ、ゆっくりと諭すようにつづけた。

「君も、願いを叶えていいって事だ。ジョーンズ家としてまずは礼を言う、プロジェクト・ラブを成功させて、トモミとアランの顔を立て、工場長も取り込んで造船傘下に出来た。しかもレイチェルが残った」

ようやく、マギーの「オン」が作動した。

「とんでもない事です。当然のことをしたまでです、ネイト」

幾度となく発してきた『秘書』の『トーン』が何とか保てたことで、マギーは内心ほっとした。どうやら自分はこの上司に、何度となく気を許し過ぎている……、そう、距離を保たなければいけない、プロとして。

「個人的には、兄貴も君の働きには満足してるから、実家の居心地も悪くなくてね、ようやく影の薄い次男坊が役に立ったというわけだ」

「ようやくなんてことはないと思います。ネイトは、キララ造船に入社してからかなりの努力をされたのではないでしょうか。工場勤務など最たるもので、それをきちんとこなしていたのは、素晴らしいと思います」

プロとして、秘書として、上司の賞賛を惜しみなく与えるのは当たり前の事である。

ネイトは少し目を見開いて、

「……工場勤務?それ、どこで知った?」

「ネットで調べました、ネイトが紡績に副社長として就任した時、どのような方だか知っておこうと思いまして。工場のブログに載っていたんですよ」

全く二人の間で沈黙が続いた初日。あれから今、こうやって2センテンス以上長い会話を続けてるなんて夢のようだわとマギーは心の中で思った。

ネイトは少し黙っていて、口元に薄く苦笑を見せた。

「ああ……まあ就任当初はね、誰がどれだけ何を知っているのか分からなかったから、わざと誰とも話さなかったんだ。兄貴から特別な指示もなかったからね……ただまあ元社長たちが何かやったんだろうなとは思ってたよ。となると、秘書室が一番きな臭いだろう?」

だからランチも一緒にしなかった。トモミ社長やアラン室長の出方も見たかったからね。

「しかしまあ今日の話で、トモミ社長は単純に君を引き抜きたいのだという事が分かったよ」



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