ライフプラン 12
マギーは口ごもった。トモミ社長は現実的な人間で、さっぱりしていて、嘘をつくような性格ではない……いや、なかった。
「そ、そうですか……」
「そうよ、まあ貴女なら分かると思っていたわ、ネイトの補佐になった時点でね……。重役会議資料は貴女が渡してくれていたけど、極機密資料は前社長から直に重役へ渡されていたのよね」
今はそんなことしないけど、とトモミ社長は苦い声で言った。
「その資料に何かあったんですか?」
「あったも何も……。インドネシアに新染料の開発を極秘で行っていたから、そこの資金調達の資料なのよ。今思えば、社長とケイトは逃げる気だったわけよね、一杯食わされたわ」
「インドネシア!」
そう、ダブル不倫の逃亡先であった。インドネシアの通貨は安い、100万USドルあればカップルで一生遊んで暮らせるだろう……。
「マギー、これはもう私たちの手に負えないのよ。もし追求したとしたら、当時のキララ紡績の株価は暴落したでしょう。そうしたらジョーンズ家が株を買い占めるだけよ、合法にね。あの時はまだ造船もキララ造船の名前を復活してなかったし、紡績との合併も一方的に進められてたかもしれない、となるとほとんどの従業員が即解雇だったでしょう」
「それは……」
マギーが何か言葉を探そうとしていると、トモミ社長は寂しげな微笑みを返した。
「貴女と同じことを、私も社長就任時に考えたわ。でも、その時夫が言ったの『君が無職になっても俺が養うよ、今まで君がやってくれたことだから。でも、その他の従業員はどうするんだい?』って」
「……」
「その時初めて結婚してよかったって思ったわ!今までの犠牲っていうか、我慢が報われたんだわ、って。散々夫にはお金を渡してきたから……、ま、それはともかく」
「トモミ社長が惚気るのを初めて聞きました……貴重です」
トモミは耳まで真っ赤にしながら、
「いや、職場では止めてるのよ、示しがつかないし、ま、とにかく。……つまりね、私は諦めたの、彼らを許せないわ、多分一生。でも、それを引きづるのはこの会社の為にならないと判断したのよ」




