沈黙 3
マギーが資料作成に集中していると、アラン管理部門長が顔を見せた。
「やあ、お嬢さんたち。君たちの上司は二人ともまだ来てないみたいだね」
リッキーが苦笑して、
「私の上司はアラン部門長ですが」
「おお、それは嬉しいね!私の事は覚えていてくれたんだね」
「……ご用件は?」
マギーはにこやかに尋ねた。このアラン部門長には、マギーは自分と近い年齢のため、何だか気安さを感じているのは確かだ。昨年独身貴族を卒業した、新婚さんだけれども、別に出会いの為に会社に来ているわけではない。こうやって、軽口を聞くだけで、心が明るくなるものだから。
「社長に呼ばれたというか、副社長の挨拶回りの件でね。まだ部屋が片付いてないのかな」
「昨日の午後いっぱい使ったので、ある程度は整理できたと思いますが、まだお客様にはお見せできない状況です」
「しばらくは外回りだろうね。創業者の縁もあって、はやくウチの社にご挨拶いただきたい、っていう顧客からの要望も多くてね。トモミさんはトモミさんで、親衛隊いるしね」
そう、彼女は国内外にファンがいるので、広い営業網を持っているのだ。
「そうなんですか。それは良かったです」
「はーい、おはよう!アラン、早いじゃない、どうしたの?」
スミス社長が部屋に入ってくると、マギーの周囲の空気が引き締まった。
これが社長の威力なのだろう。副社長の時も、元々ムードメーカーで、周囲を奮い立たせる人だったけれども。
アラン部門長も笑顔で、
「君を待っていたんだよ、トモミさん。ネイト副社長をいつ連れ出せるのかなあと思ってね」
「あら、私の事じゃなくて、ネイトの相談なの?がっかりだわ」
こういった冗談も、スミス社長の得意分野である。アラン部門長とスミス社長が二人でいると、華やかさが違う。
「おはようございます」
そして静かにネイト副社長が入って来た。マギーはしっかりPCの画面を見て、時間を確認した。只今8時53分。まあまあである。
二人に一礼して、そのままそっと部屋に入ったので、マギーも慌てて立ち上がり、開けたままのドアから部屋に入った。
「おはようございます、ネイト副社長。部屋の整理を続けさせていただきます」
「ネイトでいいから。マギーだったね」
「はい、ネイト」
そして無言のまま、ネイトは部屋の隅に置いてあった最後の箱を開けた。細かな置物が入っている。それを自分の感覚のままに、この新しい場所に置こうと思ったのだ。




