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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
133/172

金よりプラチナ 9

次の日、マギーが早めに出社すると、いつも早いトモミ社長が更に早く来ており、しかもネイトが社長室で何か打ち合わせをしているのを見て、ただならぬ気配を感じてしまった。


単なる引継ぎの様子ではない。トモミが一方的に話し、ネイトがじっと聞いている様子だ。これでは、異動の事も尋ねるに尋ねられない。


マギーが少し残念な気持ちで自分の机のPCに電源を入れていると、リッキーも出社してきた。

「お早うございます、マギーさん」

「お早う。どう、最近は」

プロジェクト・ラブがひと段落した今、ようやく秘書業務に戻れるのだと感じていたが、異動や新会社の意向で、何だか雲行きも怪しい。そういったモヤモヤをリッキーは感じているのだろうか。

「ねえ、リッキー」

「何でしょうか」

「法務関連の仕事をやるのは楽しみかしら?」

「ええ、そりゃあ勿論ですよ。それを目標に秘書業務も頑張れます。マギーさんだって室長だし、やっぱり目標は本社勤務ですか?」

この場合の本社とは、勿論造船本社の事だ。

「……仕事と条件によるわね……。あと、上司も」

「何だか煮え切らない感じですね、マギーさん。新会社になって、プロジェクトを無事に終えたし、キャリアアップにまた近づいた、って感じなのかと思ってました」

「思ってるわよ……でも」

「ああ、あの変人副社長を気にしてるんですか?まだご飯おごってもらってないんですか、マギーさん」

それはそうだ。リッキーは正しい。

あれだけの事を終えて、ご苦労様だの、慰労会だのはないのだろうか。

一緒にピーちゃんを見に行っても、現地集合現地解散で特に他の接点もなかった。ケネス社長の方にはおごってもらったのに。


「……まだだわ」

マギーは口をきりっと結ぶと、社長室の二人を見た。そこでリッキーはようやく気が付いたように、

「あ、社長と副社長?こんな朝早くから何を?」

それは私も知りたい。

「私より先に二人ともいたのでわからないけど、何か緊急なようね」

「嫌な展開ですね。アラン室長がいないと、全く動向が分からないし」

と、マギーの内線が鳴る。社長室からだ。

「はい、マギーです」

「ネイトだ。リッキーと一緒に社長室に入ってくれないか」

「分かりました」

秘書に躊躇いは許されない。それがどんなに意外な言葉でも。

マギーはリッキーを促し、二人一緒に社長室へと入った。

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