金よりプラチナ 9
次の日、マギーが早めに出社すると、いつも早いトモミ社長が更に早く来ており、しかもネイトが社長室で何か打ち合わせをしているのを見て、ただならぬ気配を感じてしまった。
単なる引継ぎの様子ではない。トモミが一方的に話し、ネイトがじっと聞いている様子だ。これでは、異動の事も尋ねるに尋ねられない。
マギーが少し残念な気持ちで自分の机のPCに電源を入れていると、リッキーも出社してきた。
「お早うございます、マギーさん」
「お早う。どう、最近は」
プロジェクト・ラブがひと段落した今、ようやく秘書業務に戻れるのだと感じていたが、異動や新会社の意向で、何だか雲行きも怪しい。そういったモヤモヤをリッキーは感じているのだろうか。
「ねえ、リッキー」
「何でしょうか」
「法務関連の仕事をやるのは楽しみかしら?」
「ええ、そりゃあ勿論ですよ。それを目標に秘書業務も頑張れます。マギーさんだって室長だし、やっぱり目標は本社勤務ですか?」
この場合の本社とは、勿論造船本社の事だ。
「……仕事と条件によるわね……。あと、上司も」
「何だか煮え切らない感じですね、マギーさん。新会社になって、プロジェクトを無事に終えたし、キャリアアップにまた近づいた、って感じなのかと思ってました」
「思ってるわよ……でも」
「ああ、あの変人副社長を気にしてるんですか?まだご飯おごってもらってないんですか、マギーさん」
それはそうだ。リッキーは正しい。
あれだけの事を終えて、ご苦労様だの、慰労会だのはないのだろうか。
一緒にピーちゃんを見に行っても、現地集合現地解散で特に他の接点もなかった。ケネス社長の方にはおごってもらったのに。
「……まだだわ」
マギーは口をきりっと結ぶと、社長室の二人を見た。そこでリッキーはようやく気が付いたように、
「あ、社長と副社長?こんな朝早くから何を?」
それは私も知りたい。
「私より先に二人ともいたのでわからないけど、何か緊急なようね」
「嫌な展開ですね。アラン室長がいないと、全く動向が分からないし」
と、マギーの内線が鳴る。社長室からだ。
「はい、マギーです」
「ネイトだ。リッキーと一緒に社長室に入ってくれないか」
「分かりました」
秘書に躊躇いは許されない。それがどんなに意外な言葉でも。
マギーはリッキーを促し、二人一緒に社長室へと入った。




