金よりプラチナ 7
「気にし過ぎだって……。大体、レイチェルだって兄貴にそそのかされて話をしているんだろう……え、まさか」
ネイトは飲んでいる水を吹き出しそうになった。レイチェルには弟がおり、その弟は共通の知り合いであるわけで……
レイチェルは表情を一切変えず、手元のウィスキー(アルコールである)をくぃっとあおった。
「あら、ウチの弟が誰と何を話そうが、姉には一切関係ないわ」
「……その言葉で十分だよ、部門長。取り敢えず私の秘書からは手を引いてもらおうか」
ようやく『副社長』の面を掛け直したネイトである。
少し息が荒くなったようにレイチェルからは見えたが。
「ぐずぐずしていると、本社へ異動になりますけどね、副社長」
「ケネス社長が何を考えているのかは分からないが、本社の次は中央官庁だろう。彼女がうんと言うとは思えないのでね」
「それはケネスをみくびってるわ……。彼はデキる男よ、仕事においてもね」
仕事『も』というその『も』が気になるところであるが、取り敢えずネイトはやり過ごした。
「まあそれはそうだが……。マギーはそこまで野心はないよ、やれる人材だとは思うし、トモミ社長も彼女を推しているがね」
「でも、年齢を考えれば、彼女もそろそろ将来を見据えた人生設計が必要でしょう。お金も必要だし、男も必要よ。どちらかと言えばお金の方が重要でしょうがね」
「それは彼女も言っていたよ、生活の為に仕事が必要なんだって」
そう、彼女が働くのは、達成感でもなく、野心からでもなく、ただ単に生活のため。
それの何がいけないの。
改めてそうマギーに問い詰められたような気がした。
「会社の為に、とか上司の為に、とかでは動かない人間もいるわ。ケネス社長はトモミ社長を動かしたいし、トモミ社長としても誰かを紡績から連れていきたいでしょう」
「マギーは素直にうんと言うかな」
「言うかもしれないけど、言って欲しい訳?」
それは……。
まあ、今回の人事が発表されてから、少し考えた。いや、だいぶ考えたのだ。この組織は近いうちに生化学事業部門一本化へと変わる。それに秘書室は必要だろうか、と。
「仕事の事を考えると、マギーが秘書をやりたがってる限りは、造船本社へ移った方がいい。だが、マギーは国際的な仕事をやりたがってたはずだ。そのチャンスを与えてみれば、慰留できると考えてるよ」
「彼女の事、よく見てるわね」
「そりゃあそうだろう、上司として当然だ」




