金よりプラチナ 6
レイチェルは間抜けな人間を見るように、ネイトを見ていた。
ネイトはただ黙って水を飲んでいる。アルコールではない、水、である。
そこは職場、ネイトの部屋、副社長室であった。
「私はっ……きちんとお話ししたはずですよ、副社長、分社化の暁には、生化学事業には真面目に参加してもらうと」
「覚えてるよ、部門長」
「ちゃんと元カノの事を清算して、二度と振り返らない、と」
「そ、そんな約束はしてないっ!」
あまりの変化球に、ネイトも一瞬これが職場であることを忘れた。
レイチェルは凄く残念そうに言う。
「これは事実でしょう、ネイト。ユージーンとピイちゃんを、あの時のあなたに重ねて……いや、それだけでなく、マギーさんまで巻き込んで。どんだけ引きずってるんですか、あなたは」
「違うよ考え過ぎだ。兄貴も君もちょっと視点がずれてるんだよ。元の彼女はもう『元』であって気にしてない。それにマギーを絡めるのはますます筋違いだ。僕はマギーの人脈や親族なんか必要ないし興味もない。大体、自分の部下だよ、何かあるわけないんだから。彼女だって僕の事は上司として見てる」
「そうよお、単なる『上司』であって、『御曹司』でも『金づる』でも『玉の輿』でもないのよお、貴重でしょ」
レイチェルは元カノの先輩であり、大学時代からネイトともども付き合いがあったので全く遠慮がない。
「や、やめてくれ!マギーを巻き込むなよ。僕は相手にされてないんだ!」
そうだ、これが事実。
自分は全く相手にされてないのだとネイトは実感していた。普通、ジョーンズ家ともなれば、周囲は気遣ってくれる。ましてはここは系列会社。そして彼女は秘書である。普通は、何か雰囲気が変わるものだ。
大体初日から、全く話さなくても構わなかった。普通、女性はおしゃべりじゃないのか。ユミ(ずっきん、と心臓が痛む)だって口を開けたらそのままずっと閉まる事がなかったし、元カノだってそうだし、一般の女性は皆話好きなのかと……。
ところが全然違うのだ、マギーは。しかも、仕事そのものにはまるで興味がないようだ。かなりキャリアがあるのに。仕事も出来るし根性もある、なのに、将来についてはまるで何も考えていないかのよう。
「相手にしてもらいたいんでしょ、それでも?」
レイチェルの視線が、さらに間抜けを見るかのようにネイトへ定まった。




