金よりプラチナ 3
サラリーマンというか、OL稼業というか、ともかく『カイシャ』に『雇われている』身としては、組織の中の自分というものを意識せざるを得ない。
マギーは自分の席に戻ってから、つくづく考えた。
こういう時に限って、ネイトもアランもメールや電話をして来ない。それはそうだろう、彼らも組織の中の自分の立ち位置を承知しているのだから。
リッキーはもう少し純粋だった。マギーにメッセージを送ってよこす。
「マギーさん、造船本社の福利厚生はどうなってるんですかね、ホムペで確認してみます」
「グループ系列だから変わらないんじゃないかしら」
「そっかー。確かに部活動とかはグループのに参加できるし、紡績のサークルも存続しているから、このまま紡績にいる方がいいんですかね」
「でもいつまで紡績独自の部分が残れるか分からないわよね」
「それも当たりですね、マギーさん。ああどうしよう、決められません」
私も決められませんわよ、とマギーは心の中で激しく同意した。トモミの異動について内示はされている。来月公表されるだろうが、後任が決まっていないか発表されない以上、ココはしばらく社長不在となるのだ。僅か1年足らずのネイトが副社長から社長に上がるとは普通ならあり得ないが、彼の血筋から言えば、ケネスの意向一つで文句なく就任も出来る。アラン室長が本社に異動しアレックス副室長がいなくなる今の状況では、それも十分あり得る。
外から誰か呼ぶか、副社長を順送りにするのか。それによって秘書室の立ち位置も決まる。いや、秘書室自体はともかく、肩書が秘書室長である以上、マギーの位置も決まってくる。
造船本社の秘書室は確か秘書室長に秘書が付くくらい規模が大きかったはずだ。第一秘書室と第二秘書室に分かれ、それぞれにチーフが置かれている。総勢15人程度だったから、本来は造船から紡績に誰かを出向させればそれで秘書業務は足りるはずだ。いや、本当の秘書業務は忙しいけれど、上から見れば1人で十分、紡績だけ専属で秘書など必要ない、と考えるのが妥当な線だろう。
今なら何故私が秘書『室長』になったか理解できるなあ、とマギーは思った。
こんな大げさな肩書など必要ないしむしろ転職時には邪魔になると思ったが、トモミはこうなる事を予測していたのかも知れない。子会社の『室長』ならば、本社への異動願も通りやすい。
はあ、ここが考えどころだ。
久々の秘書業務をこなしながら、マギーは欝々として過ごした。




