分社化とグループ 15
「静電気防止の繊維ですか……。それを可燃性の高い品物を運ぶ船に装備する。ま、理屈は合ってますよ」
濾材も悪くはないが、静電気防止繊維の方が市場は大きいはず。海上の船に限らず、陸上の機械にも装備できるもので、コストも思ったより高くない。しかも……
「その繊維を加工して手袋やエプロンを作るのをマニューから既に中国に進出している縫製工場へ依頼する。将来的には中国で消費するものは中国内で生産、その他海外は、バングラディッシュやポーランドで生産……いいわね、夢があるわ、この十ヵ年計画」
アラン室長とトモミ社長が社長室で、造船のORDが作成してきた資料を突き合わせている側に、リッキーはそっとコーヒーカップとポットを並べた。
「有難う、リッキー。後は私たち自分でやるから」
トモミ社長の声が掛かり、リッキーはそっと部屋を出る。
アランとトモミがかなり楽しそうなのを久しぶりに見たと思いながら。
ユージーン、マギー、ネイトはそろって海辺にいた。
鷹の訓練のためだが、ちょこちょこと歩く鷹は、一見小型犬に見える。
ヒュウ、とユージーンが口笛を吹くと、ちょこん、と彼の腕まで羽ばたいて止まった。
「いやあ、ほんと可愛いわ、鷹って」
「ピイちゃんは特に可愛い」
鷹はぴいぴいと案外高い声で鳴く、だからピイちゃん、というのはあんまりじゃないかとネイトもマギーも感じたが、飼い主のユージーンは満足しているようだ。
「あー、俺も飼いたいよ、鷹」
プライベートは『俺』というネイトにももう慣れたマギーだ。
「あんな大きいお屋敷に住んでるんだから、飼えばいいじゃないですか」
ユージーンが軽くいなすと、ネイトはため息をついて、
「実家出るつもりだったからなあ。もう俺の人生計画色々と狂ったよ、どうしてくれようか」
またその話かい!という心の突っ込みはマギーもユージーンも同じだ。
「私も転職したら、生き物でも飼おうかしらねえ、老後のために」
マギーも何度となく繰り返した『転職』の言葉をまた口にする。しかしまだCVを送る宛はなく、当然ながら面接の予定もない。
そして年が明け、キララ紡績の社員は役員を除き新会社へ異動した。




