分社化とグループ 14
マギーはとっさの質問に答えられなかった。というより、キララ繊維に3年間いながら、商品知識はさほどないのだ。それが秘書の秘書たるゆえん、売上トップクラスの上司‐トモミ・フジタ氏の側にいながら、会社の扱う商品はリーフレット並みの知識しか持ちえない。
「……分かりません」
ああ、やっぱり自分には荷が重かった。このまま、黙々とプロジェクト・ラブを進めていき、会社を整理しながら、次の職場を探して行けばいいのだ、それが私に見合った生き方……。
ネイトは口ごもったマギーをあやすように、
「マギー、何を考えているか知らないが、こういう事は一人で出来なくて構わないんだよ、貴方は有能過ぎる。私の為ならどんな手段も考え付くんだろうに、自分の事となると分からない……」
「しかし分からないんです、商品の事なんて知らないし、恥ずかしい事ですが自分は秘書業務だけ専念していればいいと思って、営業の事もあまり興味がありませんでした。実は何も知らないのだと思います……私……」
よく理解らないが、どうやら彼女は深刻なショック状態にあるようだ、とネイトは感じた。自分が出来ない分は周囲に支えてもらう、そういった人間関係が思い浮かばないらしい。自分が出来なければ、出来るように努力する。これ自体は素晴らしい姿勢だが、ここは会社だ。組織の力を利用せずして、なぜ我々はここに居るのだ。
そこまでネイトは考えると、ああそうか、と思い至った。
彼女は……マギーは、その転職人生の中で、今いる会社に『居る』という意識が少ないのだろう、いつも一人でプレーしているのだ。
ネイトが一人でいるのは、周囲の動きがうるさいからであり、自分がいなくても物事が進むからで、同じ一人でも物事を何とか進めようとしている彼女とは違う。ネイトにとって周囲とは、自分を助けてくれるかもしくは利用しようとしている存在であり、あくまでも自分は受身だった。
今だって、何とか食いついてくるマギーを相手にしているだけだ。自分がマギーに何かしている訳ではない。
ネイトは自分で自分の行動を確認した後、また改めて、目の前のマギーを見つめた。
「造船が何を期待して中国市場に参入するか分からない以上、深追いは必要ないと思うね。さっき言った部署を覚えているだろうか、マギー?」
「ORDですか?」
「そうそう、工場長からORD宛てに関連資料をメールさせるんだ。CCに私と貴方を入れてね。ところで……」
「はい?」
「中国の造船業の規模は大きいが、LNGタンカーなどはまだ後れを取っているんだ。特殊運搬船事業はまだまだ他国が強い。それを工場長に伝えてみて欲しいな。それでどうでるかだ」
「造船がですか?」
「皆、さ。繊維も造船も貿易振興局も生化学も……全部だ」




