分社化とグループ 13
「……分かりました。それで『近い将来造船は、どの地域に重点をおくつもりでしょうか』」
多少マギーの言い方が棒読みになったのはしたかないだろう。ネイトはそれでも話しを合わせた。
「良い視点だな、マギー。次の市場は中国だよ。13億の人口を見逃すわけにはいかないだろう?」
「え?中国ですか?しかしあそこは……造船事業を国策として位置づけ、国有企業が市場を独占しているはずです」
「そうさ、だが最近は供給過多で急激にシェアを落としている。狙い時と言えばその通りだろう」
ネイトの薄ら笑いがマギーに見えたのは気のせいだろう。
「物凄い挑戦ですね、というかギャンブルに近いのでは?」
「お役人様には分かりづらいのかも知れないが、ビジネスというのは体裁のいい賭け事でね、当たればデカいからいいさ。しかし負けても得るものがあればいいのがギャンブルとは違う点だ。ゼロサムゲームでは、経営者は務まらない」
「そ、それはつまり……造船部門で市場に食い込めなくても構わないと」
「勿論受注できるのがベストだろう、兄貴もそう答えるさ。しかしもちろん、中国の造船業は難しい。法制度もままならないし、外資にとってはプロジェクトによる明らかな政府対応の違い、簡単に言えば妨害というか間接の嫌がらせももあるだろうしね」
色々な話はあるだろうが、中国市場に参入するには、政治的に云々はともかく、政府要人との『関係』が大切だというのは周知の事実である。直接収賄に関わる例も多いだろうし、間接的に他の要件で便宜を図るという事もあるだろう。しかし一言でいえば、利益供与する、というのが本当に大事なのだ。その他、出身地が同じだったり、親同士が友達だったりというのも『関係』に換算されるが、我々外資系企業には基本関係のない話である。簡単に言えば、袖の下だ。
ケネス氏なら上手くやれるかも。いえ、少なくとも楽しんで『関係』づくりに勤しむだろう。そして、必ずやwin-win(双方が利益を得る)の方向でまとめてしまうに違いない。
マギーの考えに気付いたように、ネイトはこくりとうなづいた。
「とにかくだ、それに工場を絡ませるにはどうする?」




