沈黙 1
外を見ると、夜なので勿論暗いのだが、マギーのアパートは市街地の真ん中で、いつでも街灯のおかげで煌煌と明るい。
バサバサバサ……。音が大きくなったり小さくなったり。何かがスイングしているような感じで、マギーが顔を窓の近くまで寄せ、目をよく凝らして見ると……
鳥?
大柄な鳥が高度を調整しながら、くるくる飛んでいる。
マギーは驚いた。こんな建物の近くに、大きな鳥が飛んでいるなんて、カラスだろうかとも思った。
次の日、マギーは憂鬱な気分、いや、楽しく職場に来る人間など少数であるから、いつもよりも憂鬱度を増して、30分早目に机に着いた。
信じられないことに、リッキーも始業時間20分前に来た。でも、これはいい変化であろう。
社長室も副社長室も空なので、マギーはそのまま自分のPCで資料作成とスケジュール調整を始める。
マギーが手元のスケジュール表を眺めると、今日は、社長は営業部門と社内ミーティングが9時半から、それには副社長が出席だとある。彼女は年齢のせいにはしたくないが、スケジュール管理は紙でやり、電子手帳や携帯を使う事はない。秘書には、大きな月間のカレンダーと、A4サイズの週間スケジュール帳を使うのがステイタスだと、初めての仕事場で教わったのだ。
それ以来、20年間。マギーはスタイルを変えない。
そして、今までずっと、上司は男性女性とも自分より年上だった。
32歳の副社長か……。昨日半日、ほとんど無口でしゃべらなかったが、それは地なのか?それとも忙しかっただけなのか?まだまだ分からない。マギーは本当に大きくため息をついた。
それから資料作成にマギーは集中する。社長用だから、もう勝手は掴んでいると思う。スミス社長は、スライドの下に必ず簡単な説明を入れる。スライドを指示通り仕上げ、次に説明の方は、マギーが下準備して、一緒に原稿として渡すのが通例なのだ。




