分社化とグループ 9
「わかりました。私の力がどの程度及ぶか分かりませんが、私個人としてはキララ造船と手がける大規模事業はいい話だと思います。今度それを提案してみます」
工場長は柔らかに、そして穏やかに言った。
「マギーさんはまだ若いですね。私はもう何度か本社に掛け合っていた時点で疲れましたよ、アランさんも尽力してくれましたが、異動されたでしょう?本社自体が大変な時期に、どれだけこっちの面倒を見てもらえるか、分からないですからね」
「そ、それを何とかするんですよ。いえ、私は私で、違うアプローチをします。それにこういうものは、タイミングもあります。今なら、キララグループとしてブランドを確立したい紡績や造船を動かせるかもしれません」
ネイザン・ジョーンズ!
生化学事業を狙っているだけなのかと思っていたけど、やっぱり紡績工場が欲しいはず……。そうなのでしょう!?
「貴方の提案は理解出来たよ、マギー。工場と研究所を独立化するのではなく、造船側に組み込むという事だね」
「そうです」
夜21時!
なぜマギーがネイトの部屋にいるのかというと、あれから帰社後に工場長から奪い取った濾材関連の資料を基に、プロジェクト・ラブの改定案を完成させたところ、まだ帰宅していなかったネイトをダメ元で捕まえたからである。
そう言えば、なぜネイトはこんな遅くまで社内にいたのだろう。
最近定時で上がり、外で接待などをしているという話だったが。
マギーの様子に気付いたのか、ネイトは視線を一瞬宙に浮かして、
「今日貴方が工場に行くと聞いて、何かあると思ってね。私の勘は正解だったな」
「で、ではこの改正点は受け入れてもらえるのでしょうか」
「それは出来ないな、マギー」
即否定されたネイトの言葉に、マギーは目を瞬かせた。
「どういう事でしょうか。造船側にとってもメリットのある話です。自前で更に設備投資をしなくても、紡績側の工場で十分賄えるのです」
「今の工場の状態を見ればわかるだろう。不良債権のようなものだよ」
「そ、それは……」
そう、離職率の問題を提起したのは、他でもないマギーだったのだ。本来は工場の危機を訴えたかったのに、こんな形で返ってくるなんて。
慌てて言葉を飲み込むマギーの表情を見て、ネイトの心もずきん、と痛んだ。
その痛みがネイトには不可解だったが、とりあえずは忘れておくことにした。そう、気のせいだ。




