分社化とグループ 7
マギーは世の大多数の女性たちと同じく、あまり方向感覚に優れていない、いや、かなり悪い方だ。自力で行くのは早々に諦め、本社と工場を結ぶ社内便に同乗させてもらった。普通の軽自動車で法務総務の管轄下にあり、1日午前と午後の2便を結んでいる。
運転手は総務を兼ねている年配の男性で、元々は工場にいたという。マギーは秘書として常に重役付の車を手配していたので、正直、こういう『普通の社員』が利用している便には馴染みがなかった。4年目でもまだまだ会社を知らないのだな、とマギーは少し苦く思う。
工場は心なしかがらんとしていた。キララ紡績で働き始めたころ、トモミ副社長(当時)と1回来たことがあるだけだが、その時は何かしらの機械の音が響いていたように思う。だが、今ここにあるのは、広い空間だけだ。
「箱詰めした商品を倉庫に移動や出荷まで、ここのスペースに置いていたんです。今はガラガラですけどね」
ほとんど何もない工場1面のフロアの隅で、工場長は簡単にマギーに説明した。
その上の階は操業ラインだが、一部の機械しか動いておらず、箱詰めのラインも1グループのみで、閑散としていた。
「暇なんですね」
思わずマギーが小さな声で言うと工場長は、
「受注がないですからね。今は機械のメンテと、工場内の清掃や在庫の整理が主な作業です。おかげで工場はすっかり整頓されましたよ」
「これらの機械で、何か他の物を作れないのでしょうか」
「作業工程も変わるでしょうし、熟練工にとっては厳しいでしょう。もっとも、機械自体を入れ替えるとなると、我々自体も入れ替えないと、って話になりますかね」
「そういうものなんですね……。造船側から受注の来ているものってあるんでしょうか」
「ああ、過去にやってましたね。ここ数年は、本社決定で新繊維の生産を主力とするためにキララ造船からの受注を取りやめたんですが、昔は特殊繊維とかで刷毛とかに必要なやつを作ってましたよ」
「それを復活とか出来ますか?」
「今工場は……分かりますよね、古い人がどんどん辞めていってるのでね……。簡単にはいかないでしょうが、やって出来ないことはないでしょう。元々はキララ紡績の商品でしたからね」
工場長は軽く微笑みながら、続けてマギーに言った。
「本社側はどう考えてるんですか」
「実は……独立採算化か、キララ造船に組み込むか、考えているようでして」
「その話は3年前にもあったかと思いますよ。結果的に造船側から独立して他の代理店から注文を受ける形になったんですよ」
「……あ、そうでしたか」
マギーは何となく納得した。そうか、プロジェクト・ラブでは当社から工場と研究所はリストラするつもりだったのだ。もう一人立ち出来ないと完全に理解した上での、決定事項……。




