転職理由 4
そして午後がこれだ。
マギーは、自分に自己暗示を掛けながら、副社長室にいた。
自分は元々副社長付だったので、なじみのある部屋のはずだ。しかし、マギーが午後に呼ばれて入ってみると、ただの雑然とした小部屋になっていた。
ネイザン・ジョーンズ。
32歳。
ちなみに、マギーは45歳で、一回り以上違っている。
「ネイトと呼んでくれ、スレイターさん」
「分かりました、ネイト。私の事はマギーで構いません」
「分かった、マギー。それでは……これからよろしく」
「よろしくお願いします。お手伝いします」
雑然としているのは、まだ引っ越しの作業中で運ばれてきた箱がまだ整理できていなかったせいだ。
マギーは秘書として(秘書にダブルで太字のアンダーライン希望)、ネイトを補佐する立場にあることは承知している。こういった雑用を片付けるのも、秘書の仕事である。
そこで二人で、箱を開けて物を整理しながら移動させていく作業を始め、そのままほとんど口を利くことなく、黙々と作業をつづけ、ついに終業時間になった時、ネイトが、
「後は自分でやりますから、今日は有難う、マギー」
「このまま最後までやります!」
「いや、いいですよ。なら僕も帰ります。また明日お手伝いお願いします」
明日もかよ?
おい!
……という言葉は、40半ばの人間が発する言葉でないことくらい、マギーは知っている。
「そうですね、それでは失礼いたします」
辞めてやる!こんな会社!
という事で、マギーはPCに向かい、CVの更新にいそしんでいるのだった。
社長が首になっただけでもかなりの衝撃なのに、いくら自分のついていた副社長が後釜になったといって、あの七光りの副社長が控えるようじゃ、前途多難だ。すぐに次の職が見つからなくてもいいから、転職活動をするべきだ、とマギーの頭脳が告げた。
うんうん唸りながらタイプしていると、外の音が聞こえた。バタバタバタ、と。それは羽音に聞こえた。




