転職理由 3
「後は、その内追々説明していくわ。取り敢えずマギー、あなたは室長よ。来季は昇給するから」
スミス現社長は軽く口元を上げる。
「それよりも、まずは、ジョーンズ副社長のお手並み拝見といきましょう」
「若かったですね……」
見た目が、まるで新卒の様だった、とマギーは思い返す。
社長は、
「ええ、若いのよ。彼は32歳」
「それは……何か理由がございますか?」
「勿論あるわ。創業者の子孫なのよ、キララ紡績の大株主が実家で、お兄さんは元キララ造船の財務部部長、現在は買収先で理事よ。頭は良いようね」
「という事は、将来買収もありなんでしょうか」
「あら、私が社長になったのよ、もっと喜んで頂戴」
マギーにはその発想はなかった。
「おめでとうございます」
マギーがようやく平坦な声で言うと、社長はくすくす笑った。
「そういうところがマギーのいいところなんだけど。じゃあ、現在の社長のスケジュールを聞かせてください」
秘書の仕事になれば、マギーも平静に戻れた。
「はい、10時から副社長……いえ、社長もご存知の経営陣ミーティングです。資料は、元社長用に用意したプレゼン資料があります。ご覧になりますか?」
「とりあえずメールで送って。どんな内容だった?」
「いつもの様に、各地域の売り上げ報告のみです。パワーポイントで3ページしかなかったと思います」
「じゃあ、私の元々の資料の方が詳しいかもね」
「はい。……午後ですが、業者訪問です。15時に糸の原料会社に行く予定です」
「分かりました、私が行くと連絡して。管理部門長も同席するように。彼の予定は?」
「工場視察が13時です。その後直帰の予定です」
「じゃあそれを15時15分に原料会社へ到着するように。では、時間をずらして、15時半に訪問するように」
「はい。元々1時間の予定ですので、大丈夫だと思います」
社長はマギーにその後のスケジュール調整を指示し続けた。
マギーは自分の机に戻ると、まずは管理部門長に内線で社長の要件を告げ、社用車などの手配をし直し、原料会社をはじめ、元社長との予定のあったすべての関係者に新しい指示を出し……。
そして、事情を知って嬉しいけれど蒼白になるリッキーに簡単な引継ぎをし、何とか午前を過ごした。経営陣ミーティングは滞りなく行われたらしい。マギーはいつもスタンバイするが、今日の今日は、お昼を外で取ることにした。職場にいたくないのだった。




