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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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三年前 1

心の中に空っぽを抱えていた。

どうしようもないほど空っぽだった。


それが、マギーの中に潜んでいる気持ち。いつもいつも影を落とす。


マギー・スレイターは、自分の部屋でPCに向かい、CV(履歴書)を打ち込んでいた。今勤めている会社を辞めよう、と思ったのが10回を超える。そろそろ実行に移す時期だと思ったのだ。

まずは直近の、今現在やっている仕事の内容を言葉にしていく。


「えーっと、三年前の8月から、今の会社に入って……。」

そう、三年前の夏だったな、今のオフィスに足を踏み入れたのは。そう、そしてあの上司がいたのだ。


一次面接は集団面接。マギーは普段はおしゃべりなので、こういう時はかなり気を付けて自分の雰囲気を消した。マシンガンのようにしゃべるタイプは、営業に向いているだろうけど、今回の応募は秘書職である。マギーは最初、他の面接者の意見を聞くようにし、しっかり10分経過してから、自分の意見を述べ始めた。


勿論、最後の結論出しをする役は、他の人に譲った。(将来の)秘書たるもの、上司より目立ってしまったら本末転倒である。主役になってはいけない、わき役に徹するのだ。


3日後に、一次面接通過と、二次面接のお知らせが来た。


二次面接は1対1だったが、2人と話した。最初は、直属上司となるだろう人から。次に、その上長から。それぞれ30分ほど話したが、自分の経験と、新しい会社に対する期待などを話しているうちに時間が過ぎた。そして上長と直属上司(予定)が二人で現れ、最後の最後に聞かれたのだ。


「マギー、君の仕事に対する情熱とはどんなものかな?」

情熱?

そんなもんない。お金さえいただければ結構。

……と回答しては不採用になるのは理解できた。マギーは動揺を押し殺しながら、

「情熱でしょうか?」

時間稼ぎに、問い返すのも、一つの戦略である。その間に必死で、彼女は頭の中で模範解答の記憶を探った。そう、真実を語る必要はない。模範解答をなぞればそれで事足りるはず。

「そうですよ、仕事へのあなたの情熱です。何でしょうか」

直属上司(予定)が畳みかける。マギーは一呼吸し、笑顔で、

「今まで情熱を掛けるような経験がありませんでした。申し訳ございません。御社に採用されましたら、ぜひ情熱を傾けて、微力ですが尽くしていきたいと思っております」


回答内容は何でもいい、と出た。しかし、要は態度である。にっこりと笑顔、そして、申し訳なさそうな声のトーン。これで決まり、と。


二人はうなづき、二次面接は無事終了した。


その1週間後に、最終面接の通知を受けた。何をもったいぶって、と内心マギーはむっとしたのだが、そこは不景気、何事も忍の一字である。


最終は電話面接で、CEOからだった。


CEOは言う。とにかく目立ち、何でも出来るから、出来ない人の気持ちがわからなかった。こんな人間の補佐をやりたいか、と。


何と言う型破りな質問。こんな会社無茶苦茶だ、と思ったものの、重役以上にケンカを売るのは、社会人として最低の行いである。だから落ち着いたトーンを保ち、

「秘書業務は補佐だけでなく、実際の場面ではとっさの決断力も要求される職位だと思っています。自分は人間性よりも、業務内容を重視して、判断するようにしています。何でもできる方ならば、自分が学べることもきっと多いだろうと考えますので、気になりません」

そう答えると、CEOの笑った雰囲気が伝わり、かなり早めにその面接は終了した。


そして、次の日。

マギー・スレイターは採用通知を貰い、1週間後に、今のオフィスへ足を踏み入れたのである。

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