【第三風下高等学校】
『今日は一日快晴でしょうー』
昨日の雨が嘘のように、空は青く澄み切っている。街を抱いている神隠山地には雲一つかかっていない。誰もが天気予報を信じ、傘を持って歩いている人間は街にはいなかった。ただ5人を除いては...
いたって平和、とはいかない。県内きっての名門伝統校と言われる第三風下高等学校の教員たちは頭を抱えていた。生徒たちの成績は全く問題ではない。むしろ三年連続で入学試験平均点の高さを塗り替えるほどの好調ぶりである。
問題とは、生徒たちの態度であった。
なにしろ、教員たちよりも頭の切れる名門どころのスーパーエリート知識人が大量に入学したおかげで、教員が生徒に全く対応できず信頼を失うという事態が起こったのだ。それからというもの、教員たちは生徒の作った【校則】に従って生活しなければなくなり、もし逆らおうものなら即座にお払い箱にされるようになってしまった。
そのせいで、ここ2年で新人やベテラン、副校長を含め、耐えられずに辞めていった者が7人、お払い箱にされたものが5人も出てしまった。そのほかの教員たちも、生徒たちの気に障らないようにして精神をすり減らす日々が続いていた。
そんな中、第三風下高校に新しい教員が赴任してくるとの情報が入った。つい先日から長期休暇を取った教員の補充のため、ここで新たに採用された新米教師であるという。誰もが彼を哀れに思い、その行く末を案じていた。
姓は勝原、名は周。新米とは名ばかりの35歳の男である。
彼は初出勤の朝、先日越してきたばかりのオンボロアパートでラジオを聞いていた。その天気予報によると、今日は一日快晴らしい。ここ一週間ずっと雨に振られ続けていた御坂市民にとっては久しぶりの青空である。
彼はニュースを聞き終わると、その電源を落とし玄関へ向った。そして、傘を持ち軋むドアを開けた。
昨日降った雨は露となり、6月の桜の葉を濡らしている。
周は、空を見上げた。
「今日は雨か...楽しみだな」
歩き出した彼の靴が、まだ湿っているアスファルトに輝いている。遠くの空で、稲妻が走った。