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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第二章〔1〕 /…風の神殿と空の民

二人はどんどん空高く舞い上がって行った。

ミラの、銀の髪が風になびいた。

リオルは上昇気流を上手く捕まえて、2、3度羽ばたいては気流に任せる…を繰り返した。

羽ばたいて舞い上がって、羽ばたいて舞い上がって、どれくらいの高さまで来ただろう?ミラには分からなかった。

行けども行けども闇ばかりで、たまに白い雲や霧がかかる。

鳥人は眠りながらも飛べる。

ミラは目を閉じ、眠りの世界へと入っていった。

ミラは光を感じるのと同時に少し息苦しくなって目が覚めた。

リオルはまだ寝ているようだったが、彼が寝ていても、方向の心配はする必要はなかった。

鳥人はどこにいようと本能で祖国の位置がわかると言う。

鳥人は風の主の住まう国(空の国とも言う)でしか生まれない。

空の国は、空に浮かぶ大きい一つの島で構成されている。

国と言っても人の住まうような住居はほとんどない。

空の国にあるのは広大な草原と樹海、湖と険しい岩山ばかりである。

島の中心に、島をくり抜く深く大きい穴がある。

この穴は風の主のもので、風の生み出される場所だと言う。

空の国はあまりに高い場所にあるので鳥人以外はまず近づけない。

地上の人間にとっては謎も多く、神聖視さえされていた。

ミラももちろん初めてである。

遥か下はセレディン国等の土台である島と、その回りを囲む海や小島、他の大陸が見える。

こんなに高く昇って来たのは初めてだった。

ミラはじっと下の景色を眺め、この世界の広大さを心に刻みつけた。

二人は長い間無言だったが、不意にミラは口を開いた。

「リオル、起きてる?」

「今、起きた」

リオルは随分前から起きていたのだが、そう言った。

「お前は苦しくないか?」

リオルは尋ねた。

この高さまで来ると、空気は当然薄くなる。

鳥人は元から慣れているが、鍛えていない地上の者にはひどく辛い。

最悪長い間意識を失う事もある。

地上の者を寄せ付けない理由の一つだった。

「少しね…。それより貴方の祖国へ向かってるんだ。嬉しい?」

「そうだな」

「何故国を出て来たの。鳥人は普通、国から出ないものと聞く」

彼女の言う通り、鳥人を地上で見る事が全く無い訳ではないが非常に珍しい。

ファンフィンやリオルは特別である。

「なら、俺は変わってるんだろう」

そう言ってリオルは笑う。

「そう言う訳じゃ…」

「ファンフィンさんにも聞いたのか?」

「いいえ、聞いた事は無い。でも鳥人が国を出るのには、覚悟がいるんだよね」

「あぁ、よく知ってるな」

リオルは頷く。

「どうして?」

「これから聞く事になるだろうな」

リオルの声はあくまで優しい。

釈然としないままミラは頷いた。

それからしばらく飛んでいると、リオルが口を開いた。

「迎えが来た」

ミラは四方を見回した。

「すぐ分かる。運がいい、知り合いだから手間も省ける」

獣人や鳥人はヒトより目も耳も鋭い。

彼の言う通り、ミラの視界の端に間もなく黒い点が生じ、大きくなった。

それは厳めしい顔つきの、鋭い目をした鳥人だった。

筋骨隆々とした体格で、濃い茶の羽毛に赤が交じっている。

「リオル、目を疑ったぞ」

「久しぶりだな」

「何があった?」

鳥人はそう言い、ちらりとミラを見る。

「彼女に聞け、用があるのは彼女だ」

「名は?」

その鳥人が幾分柔らかい表情を浮かべ、ミラを見る。

「私は、セレディン国からの使者、ミラルファです。

ナウジャ女王からの命で参りました。風の主にお会いしたい」

「失礼だが、使者である証を」

「はい、これを」

ミラはさっと前髪を上げ、額にはめていたティアラを外した。

その下でキラッと何かが光る。

それは彼女の額に埋められた、逆三角形で小指程の大きさの、白く光る水晶のようなものだった。

高貴な身分の者が使者を遣わす時、使者の額には必ずと言っていいほど「第三の目」と呼ばれる使者の証が施された。

この「目」は自らが使者であると言う証であり、更には施した者に使者の位置を伝え、使者自身が念じれば見たものを記憶させる事が出来る。

証を施した者しか取る事は出来ず、使者が死ねば額から外れ、消えてしまうので術者には即座に分かる仕組みになっていた。

ミラの「目」は女王が自ら施したものだ。

「…確かに。では、私の後について来て下さい」

茶色い羽の鳥人が先頭に立つ。

その鳥人はリオルの友人でシュナーギーと言った。

シュナーギーは案内人だった。

空の国から外へ、また外から国へ出入りする場合には、彼のような案内役の鳥人に必ずついてもらわなくてはならない。

島を覆う気流はどれも常に乱れており、近付くものを吹き飛ばす。

安全な進路がどの島を覆う気流にも、抜け道のように一つだけあるのだが、これは常に変化する。

そして、その場所を見つける力を持つ者だけが、案内人になれるのだった。

シュナーギーの後について飛ぶ事一時間、大きな島が近づいて来る事に気付いたのは昼だった。

空の国には、他国からの客人を迎える際、その客人をおろす場所がある。

それは港のような造りだった。が、周囲には店も何も無い。

リオル達はそこへは降りずに、もうしばらく飛ぶ事になった。

その方が主に早く会えるからだ。

ミラは周囲を飛ぶ鳥人の姿はもちろん、幾つかの人影に気づいていた。

「リオル、人だ、人がいる」

ミラはそっとリオルに耳打ちした。

楽しそうに木の実をもぐ母親と、小さい人間の男の子の二人連れだった。

「貴女も人でしょう?」

シュナーギーに言われ、ミラはシュナーギーの方を向いた。

「そうではなく…私は、空の国に人間は住んでいないと思っていましたから。あの人達はここに住んでいるのですか?」

「えぇ、そしてあの子どもはこの国で生まれたのです。でなければ、あのように小さい人の子がここにいられる訳が無いですからね。あの子の場合は、父親が我らの同胞です」

リオルが口を挟んだ。

「ミラ、ここに住んでいる人間の誰もが鳥人の伴侶と家族だ。そうでないものはいない」

リオルが口を挟んだ。

「家族…」

ミラは再びシュナーギーの方を向いた。

「人間は、何人ぐらいいるのですか?」

シュナーギーが答えた。

「子どもも全て合わせて十と少し…それほど多くはありません。ここに人を連れてくる同胞は少ないし、人間を伴侶に選ぶ者はもっと少ない」

ミラは頷いた。

振り返ると、鳥人の男が二人の側に降り立つのが見えた。

この光景は、ミラの心にいつまでも焼きついていた。

「ミラ、寒いのか?」

リオルがそっと言う。

「いいえ…」

ミラが答えた。

「寒いなら、無理をするんじゃないぞ?」

「そんなに寒そうか?」

「奮えてるのが、伝わって来る」

ミラの服と装備は、女王の計らいで丈夫で品のよいものだが、リオルの負担を考えて武器や荷物もなるべく軽いものばかりを選んでいた。

ミラはしばらく考えて答えた。

「これから風の主に会うんだろう?緊張しないか?」

リオルが笑う。

シュナーギーを見ると、彼も微笑んでいた。

彼らはそれから話しをする事もなかった。

間もなく彼らは風の主が住むと言う、空の国中央にある穴へ続く、白い道の上に着地した。

シュナーギーはしばらく上空にいて自分達が着地したのを見届けると、一度円を描き、どこかへと飛んで行った。ミラは辺りを見回した。

自分達に近づいて来る者は無い。

ミラはリオルの背から降りた。

「リオル」

ミラは囁いた。

「これが、風の主への道?」

リオルは人型になってから答えた。

「そうだ」

白い道は見事な彫刻が施された門へと続いていた。

ミラはゆっくりとその門へ向かって歩いて行こうとした。

門の手前で止まる。

何の変哲もない。

ミラは用心深く一歩を踏み出した…。

門をくぐってすぐに広々とした平地だった。

どう言う訳か、門をくぐる前と景色は一変してしまった。

様々な花が咲き乱れ、時折サボテンが顔を覗かせていた。

円柱と段で、調和のとれた神殿へ近づくと、神殿の中からミラ達の前へ純白の羽毛を生やした十二、三歳くらいの少女が羽毛と同じ艶やかな白い髪をなびかせながら出て来た。

ミラが一番に

「綺麗な鳥人だ…」

と感嘆の声を漏らした。

すると彼女は、羽毛と同じ白い髪をなびかせながらミラ達の下へ駆け寄って来た。

正確に言うと、リオルの下へ。

「兄さん!」

ミラは驚いた。

「妹?」

リオルは頷く。

「私毎日、毎日お祈りしてたわ、兄さんが無事でいますようにって!」

リオルは優しい笑みを浮かべ、少女の肩に手をおいた。

「妹のヴィオリーだ。風の神殿の巫女で、これから風の主の元へお前を案内してくれる。ヴィオリー、この人は俺の命の恩人で、俺が今暮らしているセレディン国の騎士様だ。ミラルファと言う」

少女は目を輝かせた。

「ヴィオリーです、兄を助けて下さってありがとうございます」

彼女はとてもしとやかにお辞儀をした。

「いえ、私の方こそ彼に助けられてばかりです。宜しくお願いします、ヴィオリーさん」

ミラが言うと、少女は鈴を振るように笑う。

「呼び捨てで構いません、さんをつけて呼ばれるの、初めてです」

言って、少女はリオルを見上げた。

「主が、兄さんが使命を一つ果たしに来たって言ったの。きっとそうなのね?」

「自覚は無いが、恐らくな…」

ヴィオリーは期待と尊敬の目でミラを見る。

「使命?」

ミラはリオルを見返した。

「兄さんは、ミラルファ様に何も話してないの?」

「あぁ。ここに来たらいずれ分かる事だから、焦る必要は無いだろう」

「兄さんらしいわ」

「さぁ、時間が惜しいから行くんだ。

俺より、主の方がより多くの事を話して下さるだろう」

「貴方は来ないの?」

ミラは聞いたが

「後でお前から聞くさ」

ヴィオリーが黙ってリオルに寄り掛かった。

甘えたがっているのが分かる。

リオルがヴィオリーの頭を撫でる。

ヴィオリーは体が小さい。まだ雛だろう。

「頼むぞ」

「はい!」

リオルは神殿の奥へ消えて行くミラと妹を見遣り、柱に寄り掛かると目を閉じた。

〜ブログ公開時代のコメント〜


出版できるといいですね。

[ 2005/09/25 12:19 ] 日出島哲雄



私のゲストブックのお客様の一人、幸田回生さんは小説家です。 私のホーム頁からリンクして幸田さんの小説を読めます。 私の「おつぼ山神籠石と時空干渉者--池永投手の追放は時空干渉」は、池永正明氏の名誉のために映画にしたいと思っています。 そのときは、脚本に志願してください。

[ 2005/09/25 12:20 ] 日出島哲雄



日出島さん、コメントありがとうございます!HP拝見させて頂きました、映画化実現できるといいですね☆それと幸田様の事を教えてくださってありがとうございます、機会があったら読んで見たいと思います。


>脚本に志願してください。


嬉しいですが恐れ多いです(汗)本当にありがとうございます!

[ 2005/09/25 12:21 ] 中華

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