第一章〔7〕 /…旅立ち
先程いた場所へ戻ると、リオルが待っていた。
「遅かったな」
ミラは微笑んだ。
「リオル、今日でお別れだ。私は旅に出る事になった」
リオルの顔が険しくなる。
「どう言う事だ」
そこでミラは、彼に女王と話した事をかいつまんで話す。
「まさか一人で行けと?」
「いや、同行者を募っても構わないとおっしゃって下さったよ。…一緒に旅が出来そうな顔を思い浮かべたら、最終的には貴方しかいなかったけど」
「なら、何故そう言わない」
「私が、獣人や鳥人が子孫を残す事を何より大事にしているか知っているから」
ミラは、背伸びするように手を伸ばし、リオルの長い漆黒の髪(羽が髪のようになっている)を弄ぶ。
ミラはすらりとした体型だったが、獣人や鳥人の背は高い。
雄雌関係なく成獣になると2メートル付近かそれ以上に達するのが普通だった。
「…」
「言っておくが貴方の事を考えたんだ。この旅はいつ終わるか分からないし、命を失う危険が大きすぎる。私の側にいては子を残せまい…だから言わない」
獣人や鳥人の寿命はヒトの寿命より遥かに短い。
その分成獣になってからの老化は遅いのだが。
リオルがひどく不機嫌そうな顔をする。
「俺は、お前と行く」
ミラがにっこり笑う。
「うん。ありがとう…」
それからはっとして
「女王様とマーナ様に、貴方の分も旅の用意をしてほしいと伝えなくては」
と呟いた。
やがて全ての準備が整った。
いよいよ出発の時だ。
日が暮れ、あたりは闇に包まれていたが、城の頂上から名残惜しそうに住み慣れた街を見渡す二人には、出発を朝にする気はさらさらなかった。
「行き先は?」
リオルが聞く。
「まずは、風の主」
リオルの腕が見る見るうちに大きな翼に変化する。
「乗れ、久々の故郷だ」
武装したミラが背に乗った次の瞬間、彼はパッと城壁から飛び立ち、夜の闇に溶けていった。
それを見ていたのは、彼等が発つ事を知らされた人間だけだった。
「無事に帰って来るのですよ…」
女王が、二人が消えた方角に向かい祈るように言う。
「行ってしまった…」
王宮の執務室から空を見上げるファンフィンの言葉に、ガルスベルが笑う。
「せっかく同族に会えたと喜んでたのにな。お前も一緒に帰って来たらどうだ?」
茶化すように言う。
「お前こそ、ミラを行かせたく無かったんだろ」
ファンフィンは彼の気持ちを知っていた。
ガルスベルは苦笑して、外を見つめた。