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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第一章〔4〕 /…襲撃

襲撃は、思わぬ強敵の出現と、予想以上にぬかるんだ大地により上手く行かなかった。

シャリア村の人々はコヒセ達山賊団の襲撃をどう言うわけか知っており、戦いの準備を整えて激しく応戦して来たのだ。

その最たるのが一羽の鳥人だった。

その鳥人は強く、コヒセ達は多大な損害を与えられたものの、数はまだ圧倒的に有利だった。

シャリア村の人々は押され、何とか門の中に侵入されるのだけは防いでいたものの、負けるのは時間の問題だった。

もうすぐ夜になる。

シャリア村は不気味な静けさに包まれていた。連中は夜にやってくるのだ。

そして夜になった。

村長であるドライスの部屋に駆け付けて来る足音が聞こえた。

「今度はどんな悪い知らせだ…」

バンッと扉が開き、若い兵士が飛び込んで来た。

「ドライス様!連中は、まだ余力を残していました!」

「何!?」

兵士に続き見張り台に登り見下ろして、ドライスは蒼白となる。

干上がった川を挟んで向かい側、山すそのあたり一面、連中の持つ松明だらけだった。

とうとう終わりだ。

村には絶望感が溢れていた。

それは連日前線で戦っていた村の警備兵や、騎士達も例外ではなかった。

「まだあんなにいたか…」

がっしりした長身の、整った顔をした黒髪の男が、村を囲む隔壁の上で呟いた。

その体には見事な黒い羽毛が生え、足は鋭い鉤爪を持つ鳥の脚だった。年の頃は二十二、三か。

彼の側で待機していた騎士団のリーダー、シイフェが隔壁の上の彼を見上げた。

「リオル殿、空へ行かれては」

「…」

リオルと呼ばれた鳥人はそれには答えず苦笑した。

「そっそんな!リオルさんがいなくなったら俺達…」

声を上げたのは新人の兵士。シイフェが目で制すと兵士が黙る。

「貴方が一緒に戦って下さらなかったら我々はとっくに死んでいただろう。感謝している。だが、貴方はこの村の者ではない。だから…」

「気持ちは嬉しいが、俺を臆病者にするつもりか?」

とんでもない!とシイフェは否定する。

「冗談さ、だが今逃げるつもりはない」

シイフェは俯いた。

「…すまない」

言って、シイフェは一人の男に声をかける。

「門を固めた連中に、準備を怠るなと伝えろ。すぐに私も行く」

はいっといささか覇気を欠いた声で返事をした男は、それでも全速力で走って行った。

シャリア村を包囲したコヒセ達は完全に勝った気でいた。

「あははは!」

心底楽しそうに笑う

「笑いが止まらないねぇ。村の連中が絶望感に打ちひしがれてるのが目に見えるよ」

「お頭!奴が!」

部下の一人が指差す方を見ると月を背景にゆっくりと旋回する鳥の姿が小さく見えた。

とたんにコヒセの表情が険しくなる。

「いいか、もう少しであの村が手に入るんだ、ぬかるんじゃないよ!分かっていると思うがあの鳥人に注意しろ!」

叫んでから呟いた。

「いまいましい鳥人め…あいつさえいなければ、もっと簡単に勝ってたんだ。今度こそ地に叩き落としてやる!」

すらっと剣を抜いた。

これを合図に山賊団は一斉に門を目指して走り始めた。

「来たぞ!」

空を舞うリオルの声がした。

「門を開け!」

シイフェの号令と共に堰がきれたように、彼を含めた兵が門の外へ走り出た。

たちまちあたりは戦場となる。剣を血で染めながらコヒセは叫んだ。

「降りて来い!」

上空にいる影を睨む。

奴も何度か自分を狙ったようだったが、部下達がそれをさせなかった。

結果、余計な血が流れる事になった。

突然奴が急降下して来る。

剣を閃かせたが、するりとかわされ、あっという間に自分の側にいた部下が二人、鋭い鉤爪により命を落とし、三人が肉をえぐられ重傷を負った。

リオルが再び舞い上がろうとした時、近くにいたシイフェが武器を奪われ、倒れたのが見えた。

「シイフェ!」

彼を今まさに突き刺さそうとしていた山賊を脚で掴むと他の山賊に向かい放り投げた。

シイフェが無事なのを確認した一瞬、背後に隙が生じた。

リオルを追って来たコヒセは、不気味な笑みを浮かべると、剣で彼の背に切り掛かった。

気配に気付き、かろうじて急所は外したものの、剣は彼の背をえぐった。

リオルが悲鳴を上げて羽ばたいた。

だが次の瞬間、シイフェが近くにあった剣を拾い、彼女を突き刺していた。

彼女が地面に崩れ落ちる。


シャリア村のすぐ近くまで来ていたファンフィンは同族の悲鳴を聞いた。

激しい戦いが繰り広げられているのが見えた。

鳥人や獣人の目は昼も夜もよく見える。そして傷つきながらも戦う仲間を見つけた。

「待ってろよ!」

敵に狙いをつけると急降下を始める。

突然加わった鳥人に山賊はおろか、シイフェ達も驚いた。

「私は王国騎士団のファンフィン!ルタミト将軍達が来るまでもう少しの辛抱だ!」

ワーッと歓声が上がる。

実際、ルタミト達もすぐそこまで来ていた。

ルタミトは騎士団を二つに分け、一隊は川べりを進み、一隊は山すそを進む事にした。

川を進むのはルタミト達本隊。

山を行くのはガルスベルやミラルファ達で、これには途中から駆け付けて来た、付近の村からの兵が加わった。

山賊達は慌てた。

頭が倒れた上、ルタミト達がこんなに早く来るとは思ってもいなかった。

コヒセが倒れた後、指揮をとっていたイラスオは顔色を変えた。

「戻れ!山へ行け!」

一時退く事にして、山すその方へ逃げ始めた。

ルタミトの作戦は見事だった。

山の上からガルスベルの一隊が雪崩のように突っ込んで来たからだ。

取り囲まれた山賊達はおろおろと逃げ惑うばかりで次々と死んで行く。

「大丈夫か」

ファンフィンは同族の側へ行く。

「あぁ。これぐらい、心配いらない」

苦しそうに言い、次の瞬間、彼は逃げる山賊達を追って飛び立っていった。

「大したもんだ…」

呟いて、彼に負けじとファンフィンも続く。

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