第一章〔3〕 /…山賊達の悪巧み
ミラルファは騎士団に加わってからルタミト達と共にセレディン国各地を周り、山賊や魔物達を退治して回った。
そうした中で目覚ましい活躍を見せ、かつて自分を救った副隊長ガルスベルと肩を並べるまでに成長していた。
さて、彼等は険しい山々に囲まれ、岩をくり抜いて造られた山賊達の砦だけは中々制圧出来なかった。
山賊達は攻撃をしようとすると蜘蛛を散らすように山の中に隠れてしまうのだった。
そして騎士団がいなくなった所を見計らっては巧にあちこちの村や町を襲い、民を苦しめていた。
その城の王はマダーザガと言って、悪名高い山賊だった。
しかし彼はルタミト達との一戦で深手を負い、その傷が元で死に、彼の娘であるコヒセが後を継いだ。
彼女は父を奪ったルタミト達王国騎士団を心底憎んでいた。
だが王国騎士団を相手にまともに戦うだけの力は無いのは何度かの対戦で分かっていた。
『どうすりゃいいんだ』
幾ら考えてもいい考えは浮かばない。
「ふん、野郎どもを集めて聞いてみるか」
合図の角笛を吹くと荒々しい男女がぞくぞくと集まって来た。
中に数人、毛を生やした獣人もいる。
「集まってもらったのは他でもない」
顔は怒りに燃えていた。
「あの憎いルタミト達の事だ。悔しいが、あたしらじゃ勝つのは難しい、だがちっこい村や町を襲うぐらいで我慢してられるもんかっ」
拳を握りしめる。その時さっと立ち上がった男がいた。
コヒセの忠実な部下であるイラスオだ。
「コヒセ、落ち着け。こいつがよい案があると言っている」
もう一人、男が立ち上がる。それは様々な不思議な術を使うヌウォンだった。
「ヌウォンか、よし、話しな」
「シャリア村を襲うのです」
「なにっ!?」
人々がどよめいた。
だがそのどよめきもほどなく静まった。
と言うのも、ヌウォンは彼等の中で知られた知恵者で、彼のお陰で今日まで被害が最小限に抑えられていたと言っても過言ではなく、コヒセの信頼も厚かった。
『何か、深い考えがあるに違いない』
と、彼等はヌウォンの言葉を待った。
「何も、そのように恐れる必要はありませんよ、皆さんも知っての通り、あの村は川と川の間にあって、川が荒れている時は空を飛ぶ鳥人以外は近付く事が出来ません。もちろん王国騎士団もです。奴らが我々を警戒して残して行った兵が多少厄介ですが、ここを拠点に出来れば活動の場をこの砦だけでなく更に広げられます。犠牲は多くなるかもしれませんが…」
「何!?馬鹿言うんじゃないよ、それじゃ」
「まぁ、聞いて下さい。騎士団を見張る者から知らせが参りました、騎士団はチャドブランカ山周辺の村々に駐在していると。我々がここから襲撃しに行っても、彼等はそれを知らないのですし、知っても救援には間に合いません。幸い、今、川は干上がりほんの少ししか水はありませんし、我ら全てが全力でかかれば…」
ヌウォンの顔を睨むように見ていたコヒセは、力強く頷いた。
「本当にいいのか、コヒセ」
イラスオだった。
「何か嫌な予感がする。俺は、今回はこいつの言う通りにするのは気にくわん」
イラスオはヌウォンに対する嫌悪をあらわにしていた。
一方ヌウォンはすました顔をしている。
「何言ってるんだ、こいつのお陰であたし達はこうして大きくなれたんじゃないか、今回も失敗しないよ。それより成功した時の事を考えな」
イラスオは黙った。
「そうだな…お前の言う通りだ」
ただちにコヒセ達山賊団は全てがシャリア村へ向かった。
ちょうどその頃、ルタミト達騎士団もシャリア村へと向かっていた。
彼等は数日前にコヒセの部下を捕らえていた。
狼の獣人である男は騎士団の位置を把握するよう命令されており、ずっと尾行しては騎士団の位置を報告していたのだ。
それをミラルファが捕え、情報を引き出した。
ルタミトは彼女から報告を聞き、ただちにシャリア村へ向かう事にした。
「間に合うでしょうか」
ミラルファは隣で馬を駆るガルスベルに問う。
「お前のお陰で気付くのは早かったが…襲撃は免れない。我々が着くまで持ちこたえてくれればいいんだが。ファンフィン!」
空を見上げた。
「何だ?」
と、ファンフィン。
「お前、ひとっ飛びして状況を掴んで来てくれないか?もし村が危なければ加勢してやってくれ。お前の翼なら我々より速い」
「ガルスベルはそう言ってるけど、どうですか、隊長?」
ガルスベルの斜め前、先頭を走るルタミトに聞く。
「頼む」
「了解!」
ファンフィンは空へ舞い上がり、一直線に村の方角へ飛んで行く。
その姿はあっと言う間に小さくなった。