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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第三章〔4〕 /…獣人と人間の影が一つずつ

遥か昔より、セレディン国を含め近隣諸国で定期的に起きる、とある連続殺人事件の捜査中にガルスベルはファンフィンと共に、タングフェルタにあるビプトトプ港に近い小さな街、モショペベイドに差し掛かった。

犯人達は、弱ったもの、傷ついた者を真っ先に狙っている。

更に、犯行を重ねるごとにエスカレートしているのだ、とガルスベルは異変に気付いた。

数年前に感じたのと同じような、殺人蝙蝠の不吉な影を感じた。

「エスカレートする行動の裏には、通常なら秘密があるものですが……」

ガルスベルから報告を聞いた女王が眉を潜めながら言った。

「女王様……」

「ガルスベル、引き続き調査を続行して下さい」

はっ、と、ガルスベルは深々と頭を下げた。

過去に殺人があったその場を去る際に脳裏を横切ったのは、ファンフィンとの出会い。

ガルスベルとファンフィンは偶然その場に居合わせた。

(男性、女性、年齢や性別は関係ない。餌め)

まがまがしい気配を放つ狼の獣人だ。もう一人、獣人の背に朱い髪の女がいる。

(ちょっとあんた達っ何しに来たの?)

怒気をはらんだ村人の声だ。

(何しに来たの?喧嘩しに来たの?止めたほうがいいよ、タングフェルタの人間にっっ)

村人達が集まる。

だが次の瞬間、獣人に小さい子供があっと言う間に掠われた後、その獣人の後を青い翼を持つ鳥人と、一人の女が必死な形相で追い掛けて行った。

女は母親のようだ。

ガルスベルは獣人はともかく、鳥人を見たのは初めてだった。

だが途中に落ちていた、既に血に染まった我が子の頭部を見て、女はその場に言葉もなく崩れた。

鳥人は躊躇い無く獣人に体当たりを行う。

すると村人が手に武器を携え鳥人に加勢しようとした。

村人の武器は、本来は害虫を近付かせない為に、害虫の嫌がる臭いのする液を含む玉である。

獣人は嗅覚が鋭く、行動パターンを読まれてしまうから、それを封じるためだ。

リーダー格の村人が信号を発して一斉に玉を投げつけ、敏感な獣人の鼻に液をかけて撃退しようとする。

(あいつら、安定薬でも?)

ガルスベルは二人の態度を不審に思った。

あれだけ弱点を突く武器に包囲された中で、獣人と女は不自然な程冷静に見えた。

しかも、弓より桁違いに強力なシバソイ(弓に似た武器で、特定の力を持つ刀の力を引き出して何時間でも続けて発射出来る)に持ち替え、空中の鳥人にまで攻撃しようとしている。

ガルスベルはふと、二人は村人へではなく、鳥人に対する防御対策をしていたのだと気づいた。

(待て!貴様ら薄汚い盗賊は、そうやって勝手気ままに人様の大切な物に手を出して…奪う!)

叫んだガルスベルが乱入した瞬間、朱い髪の女により、何かが無造作に放り出された。

それは子供の胴体だった。

(若いの。俺達と、勝負すると言うのか?)

と、不吉な声の狼の獣人。

(ふふふ…ただの盗賊と思わないがよろし)

朱い髪の女が、ガルスベルに武器を向ける。

雷を凝縮したエネルギー弾がガルスベルを直撃した。

しかしガルスベルが予め構えていた魔力の逆裂き(レタニュティ・ナイフ)を見事に使いこなし、瞬時にして弾を切り裂いて跳ね返し、獣人と朱い髪の女を打ち飛ばした。

苦しそうに身をよじらせ、二人は同時に息を止めた。

途端、ガルスベルは体勢を崩し、急降下して来た鳥人に支えられた。

獣人の中には危害を加えようとした敵を欺き、長く伸びる舌を武器として使う者がいると聞いたが、

ガルスベルを貫いたのはシバソイの残り弾や舌ではなく、獣人の鋭い尾だった。

貫かれた腹からは腐敗臭まで出ている。

「……自分を責めるなよ」

「何だと!?」

ガルスベルは鳥人に食ってかかった。

「君がいても助けられはしない、この俺でも助けられないだろう」

獣人が完全に息絶えた事を確認しながら、鳥人は軽々とガルスベルを担いだ。

「重いだろ……?」

「人を背負って飛ぶ時の、当然の重さしかない。へばるなよ?君がへばったらどうなる?君を早く治療してもらう…その為に俺が居合わせた」

ガルスベルの身体に浮かぶ、普通の血液ではないおびただしい血文字。

一刻の猶予もない。多くの鳥人は、その背で大切な命が消える瞬間を経験している。

辛くても決して表情に出さない。

鳥人は彼を王城に運び、事件の報告と血文字の消去、とりあえずの応急手当てを受けさせた。

その後、ガルスベルがタングフェルタ王の命で結成された調査団と共に死んだ狼(雌だった)

の獣人の体を改めて調べると大きく、獣化した際の体重は百キロ近くもある。

犠牲となった子どもの傷から出て来た獣人の歯を調べた結果、コヴェネスク(アンブルメナシー地方だったのではと言われる最有力の地)系統の獣人のものであると判明した。

「殺人蝙蝠か……?っと、調査は終わったのだろう。セレディンへ帰るんだな?」

「いいや」

「今は帰るべきだな。君の仲間に報告は行っているだろうが……心配しなくていい、探し続ければ見つかる」

ガルスベルが彼を見ると、鳥人は諭すように続けた。

「で、だ。その先に何がかかって来る?」

「殺戮者ども……」

「そうだ、君が今精神まで傷つけていたら、そいつらには辿り着けないぞ」

「……すまない、ファンフィン。ありがとう」

鳥人はほっとしたような顔を見せた。

「ところで、殺人蝙蝠達が出て来たかもしれない事は忠告するべきでは?」

無邪気に殺人現場のすぐ近くで遊んでいる子供たちを横目で見ながら、ファンフィンは言った。

「あの子ら、殺人が起こったのを知らずに遊んでいるが…」

子供は、自分達の他に恐ろしい何かがいるかもしれないとは考えて無いだろうから。

これには近くにいたタングフェルタ兵士が答えた。

「どうせ伝わるだろう。だからまだ、知らない方がいいのさ」

ガルスベルとファンフィンは、村人が他国からの人間を警戒するように見て来るのは、あの事件が、村人の生活に影を落としたのだろうと推測した。

子どもはトレレラ(攻撃的な性格ではないが、敵と認識するとでかい頭を一度反らせ、体重の三分の一をかけて何本もある牙を突き刺す。体が大きな動物なのに、一連の動作はとてつもなく速い)や、ベヤミン(腹が減ったら何でも口にする花をつける植物。小さい奴だが気が荒い。海辺に生息し、切れ味鋭い種を船や生物にぶつけて来る)のような危険な獣や植物にも平気で近付く。

「さてと、あとは体力がある君に頼むかな」

タングフェルタの王城が見えて来たあたりで、ガルスベルがファンフィンに言った。

「それはもしかして…やっぱり」

王城から武装した兵士達が集まって来た。

ファンフィンは彼等を一瞥して、

「まぁいい、体力に自信がある証拠を見せよう。だから」

「分かってる。俺は、君の言葉に従うさ」

と、ガルスベル。

「是非そうしてくれ」

ファンフィンはこれから降りかかるであろう、タングフェルタ人からの質問攻めを覚悟した。

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