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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第一章〔2〕 /…王国に仕えるまで

ルタミトは意識の無い娘を王宮に運ぶと、開いている部屋のベッドに娘を寝かせて娘の回復を待つ。

やがて娘は目を開けた。

「おぉ、目を開けたな」

娘は不安そうに辺りを見回して

「ここはどこでしょうか」

「心配する必要は無い、ここはセレディン国の王宮医務室だからな儂は王国騎士団の隊長ルタミト」

娘はやっと安心したようだった。そこでルタミトは尋ねた。

「娘、名は何と言う?」

「ミラルファと申します」

「ミラルファ、何故、あの嵐の中で泳いでいたのだ?そしてその服は今まで見た事が無い、お前はどこの生まれだ?」

「私は、流浪の民です」

凜とした声だった。

「そうか…やはりな」

思った通りの返事だった。

流浪の民とは一つの場所に留まる事をせずに芸をしたり物の売買をする人々の事である。

だが広い意味で盗賊や海賊、物乞いや浮浪者も入るし、国によっては犯罪予備軍とされ長く弾圧された歴史もある。

「数日前、何人かの仲間と共にユハト国を通過しようとした際、その国の人々に襲われたのです。もともと少なかった仲間は散り散りになり、私は崖に追い詰められたので意を決して海へ飛び込みました。飛び込んでからの記憶は抜けております、気がついたら近くに板切れが数枚あったのでそれに捕まり、陸地を求めて泳いでおりました」

ルタミトは顔をしかめた。

ユハト国は元々他国人を歓迎しないし、どの地にも定着しない流浪の民を特に嫌い、入国しようとするなら排除せよと命令している国の一つだ。

今でこそそう言う国は少なくなってはいるけれども。

「その、腕に巻き付いている文字のようなものは何だ?」

彼女の両腕には黒く独特な形をした呪文のようなものが巻き付くように描かれていた。

それは幾ら洗っても落ちなかった。

「これは、私達一族に伝わるまじないの言葉で、特殊なやり方で書いてあるので落とす事は出来ないのです。人目につくので普段は包帯で隠しております」

そこまで言った時に扉が開いて、絹の服にビロードの外套、珍しい宝石の首飾りをつけ、頭に金の冠をかぶったまばゆい程美しい若い女が、優しい笑みを浮かべながらおつきの女官を二人従えてミラルファの方へ進んで来た。

この人の側ではどんなに美しい人でも霞むだろう。

「貴女が勇敢な娘さんですね、話しは聞いております。私はナウジャ。この国の女王です」

女王は優しく言った。

慌ててミラルファは跪づこうとしたが女王はそれを止めてよく休むよう告げた。

「このような恰好でお許し下さい、私はミラルファと申します」

女王がまた微笑んだ。

「ミラルファ、また話しましょう」

女王は側についていた中年の女官に何事かを囁き、若い女官をつれてルタミトと共に出て行った。

「どこか、苦しいところはございませんか。何か用事があれば私めに申し付け下さいませ」

淡々とした口調で言う。

「ありがとうございます、大丈夫です。…迷惑をおかけして申し訳ありません」

かすかに女の表情が和らいだ。

「さぁさ、今は眠るのが一番ですよ」

ミラルファは頷いてふぅっと溜息をつくと、また横になり目を閉じた。

「あの娘の事ですが、どう思いました?」

女王は医務室から出てしばらくしてルタミトに尋ねた。

「とりあえず、何故漂流していたかは分かりました」

そう言って彼は聞いた話しを手短に伝える。女王が苦笑した。

「いえ、そうではありません。信用出来そうですか?」

若い女官が少しだけ眉をひそめた。

「女王様、あのような流浪の民を迎えるおつもりですか?」

「それは、まだ分かりません」

ルタミトがちらりとその女官を見、次に女王を見る。

「これは儂の勘ですが、平気で嘘を言う人間には見えませんでした」

そう言ってルタミトは足を止めて一礼した。

ルタミトは隊長の執務を遂行すべく、兵士達の待つ王宮の庭へ戻って行った。


次の日、女王は会議の時間に領主や、主だった家来達に娘の処遇について意見を求めた。

「怪物めを追い払った時の見事なあの身のこなしや、我々に対する態度や言葉遣いにもどことなく品があります、あの娘はただの流浪の民では無さそうです。娘の意向を確かめた上で、手元に置くのも一つの手かと」

ルタミトの言葉を聞いて、何人かは娘が流浪の民と聞いて不満そうな顔をしたが、他大多数は娘を受け入れる事に反対しなかった。

女王はそれで娘にここへ来るよう使いを出した。

ところで、ミラルファは用意されたセレディン国の服を身につけ、腕に包帯を巻き終わった時に女王の家来がやって来たので、何事かと少し動揺した。

自分は流浪の民だから、これから何かで裁かれるのではないかと思ったのだ。

しかし彼女は考え直した。

『あの女王はそのような事を考える方には見えなかった。きっと私の話しを聞いて下さるだろう』

腹が決まって、ミラルファは、家来と一緒に女王の元へ行った。

やがて広い会議室へ通された彼女は女王の前で頭を下げて跪いた。

「女王様、私は流浪の民ですが、この国に入ったばかりです。やましい事は何もしておりません!」

すると女王は

「貴女は何か、勘違いをしているわ。もし貴女を罰するなら、回復を待ったりしません」

と言って笑う。

「えっ…?」

ミラルファは驚いて顔を上げる。

「貴女は見事な働きで魔物を追い払い、民を助けてくれたそうですね。それで頼みたい事があるのですが…」

「はい、助けて頂いたご恩に報いる為なら何なりと致します」

「貴女は、この国の為に戦う覚悟はおあり?」

「はい!喜んで」

こうしてミラルファはセレディン国に仕える事になり、間もなくルタミト率いる王国騎士団の一員となった。

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