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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第三章〔1〕 /…セレディンの王女王

ミラルファ達が旅立ってから、しばらく経過したある日。

セレディン王国と隣国タングフェルタの境目にあるメネルス丘に、大きい岩のような物体が落ち、不吉な文字が書かれた、奇妙な物を発見したと報告があった。

ナウジャは調査団を編成し、長であるハヴァサに、リリジェ大臣と共に使者の証を施して派遣した。

ハヴァサから伝わる映像によると、物体は岩ではなく、文字を刻まれた生物の骨が黒くなったものが百点以上、

人骨は一点だけ含まれていた。

「この人間の骨は、普通の人間のものではありませんね」

と、ナウジャ。

「はい。明らかに、成長の早さに身体がついていかず、死んだものと思われます」

骨塊が墜落した現場は、イドランと言う、背の高い雑草に阻まれ見通しが悪い。

この雑草は、イドランワインの材料になる実に非常に良く似ているとされている。

メネルス丘周辺は、下層階級が多いので、護衛をつけずに調査団を派遣するのはやや危険だった。

ルタミトとガルスベルは女王の命で、それぞれ一名ずつラゲラールを護衛長、ネグフルを副長として派遣する事にした。

調査をしていたハヴァサは、既に骨に近寄りがたい不気味さを感じていた。

ネグフルは外の監視をする事が多かったから、ほとんど骨塊の事を知らなかった。

ハヴァサとラゲラールは調査もそろそろ引き上げ時だと言っている。

ネグフルは手近な木にもたれていたが、ある事に気付いて槍を片手に二人に近づいた。

「ハヴァサ殿?…ラゲラール、何があったのですか?」

ハヴァサは目を閉じ、ラゲラールは眉を顰めた。

「お前こそ何を言っている?」

言って、ラゲラールは腕を組む。

「はい。お二人の体に浮き上がっている文字」

ネグフルは言葉を切った。

二人は彼女に返す言葉が無かった。

骨塊に刻まれた文字と同じ文字が、自らやラゲラール、助手達の体にぼんやりと浮き上がる現象を、どう説明すればいいのか。

このまま何も無ければいいのだが。

「ともかくこれは、この場所に戻しておかなくてはな。王宮には持ち帰れん…」

呟くように言ったハヴァサが、ラゲラールが持っていた塊を元に戻した。

瞬間、ハヴァサは気付いた。

自らの手に乗っていた筈の、骨塊には影がなかった。

まさか…と、ハヴァサは地に散らばっている塊に目をやる。

やはり、影らしい物は無い。

ルタミトとガルスベルは、女王の生誕祭で起こった女王狙撃事件での捜査を詳しく見直していた。

女王狙撃事件は、女王が贈り物を国民に披露する場を利用して行われた。

暗殺者(ホルヘブと言うタングフェルタ人で、貴族)が女王に高価な織物を贈り、女王が手にとり、国民に披露したところを目標として弓で射た。

だが、遠くからの狙撃は非常に困難で、危ないところで未遂に終わった。

「ダディラ王からの求婚を長く保留していたことが、彼らを怒らせたようだ」

「彼ら?」

と、ファンフィンは首を傾げ、すぐ理解した。

「ホルヘブは氷山の一角って事かい。タングフェルタ人は暴力と自然の調和を象徴する。ダディラ王自ら長時間滝に打たれ、自然と調和しようとする程だ」

「女王様、あなたに好意を持っている高貴な方からの誘いを保留する程、何かに没頭している時は御身が危なくなると言う事ですな」

ルタミトの報告を受けながら、ナウジャが王座に戻ると、ガルスベル達が沈痛な面持ちで待っていた。

「落ち込んでいても仕方がないわ、あなた達は出来るかぎり防いでいたのですから」

「ありがとうございます、女王様」

マーナは涙をぽろぽろと流す。

事件当初、犯人は流浪の民ではないかと憶測が飛んだ。

「きちんと見てごらんなさいな!この弓の跡も、クグイ(苦喰い・流浪の民の蔑称)にしては正確過ぎますわ」

と、マーナはピリピリしていた。えぇ、とガルスベルが口を挟む。

「流浪の民の種類によりますが、セレディンにいる流浪の民はいずれも戦闘技術の無い部類に入ります。あれら流浪の民程度の狙撃手が、非常に遠くからあれほど正確に、動く標的すれすれに命中させる事は、まず有り得ません」

ガルスベルには気掛かりな事があった。

捕らえた当初、ホルヘブが所持していた手紙の中には彼とギヌノ・オーヴァテタスが繋がっているような文章が書かれていた。

ギヌノ・オーヴァテタス(出会えば生の喜びに影を落とす)とは、アンブルメナシーの殺人蝙蝠、と呼ばれる者達が太古より密かに活動を続けているという謎の秘密結社だった。

余りに多くの謎につつまれており、組織の存在を疑問視されている事も多い。

アンブルメナシーの殺人蝙蝠、とは、今では伝説となっているアンブルメナシー地方での数々の悪行の末、人間により去勢され、盲目にされた為に、普段から人間に強い憎しみを持ち、更に暴力を振るうようになった人間と獣人の混成集団の事だった。

ヨト諸島に棲息する殺楽種の一種、凶悪な大蝙蝠バルアイをモデルとしている。

ちなみに獣人は人間以上に性格や環境によって爆発的に進化する。

彼らは被害者の肉体の一部を持ち去り、犯行を思い出して楽しむと言われていた。

そして、それ以外に手掛かりをつかむ事も出来ない。

更に驚く文章が発見された。

手紙には組織図と共に総長や幹部の名前が記されていた。

そこには数国の王族、歴史に名を連ねた人物等、信じがたい名前の数々が!

「ギヌノ・オーヴァ…」

ナウジャが続きを言おうとした時、ファンフィンが一度、素早く羽ばたいた。

「…女王様、面会人のようです。ご用心を」

ファンフィンは扉を睨み、女王の傍に膝をついた。

しばらくして、扉の向こうに他国の一団が見えた。

先頭に立つ男が指導者のようだ。

それに続いて騎士団が姿を現した。

周囲の官が彼らを驚愕の目で見る。

一際目を引く先頭の、赤銅の髪の厳めしい男。

その頭上にある、金の冠。

「あなたは…」

「女王様、ご安心を」

ナウジャは小声で励ましてくれたファンフィンをちらりと見て、男に向き直る。

男以外の全員が膝をついた。

「お久しぶりです閣下。タングフェルタ王ダディラです。この度の、我が臣下の非礼をお許しあれ。だが、改めて頼みたい。セレディンをあなた共々私に任せて頂きたい」

ファンフィンは唇を噛み締めた。

(ぬけぬけと…女王に剣を向ける真似をしておいて!)

ナウジャはまじまじとダディラを見つめた。

かすめたのは毒矢だった。

大きな混乱、初めて感じた死への恐怖。

「ファンフィン。ホルヘブを連れて来なさい」

余裕の笑みを浮かべてナウジャを見上げるダディラ王は、至高の芸術品を愛でるような表情をしている。

間もなく、荒々しい物音がした。

「王よ、知っているだろう?俺の一族は古よりタングフェルタ王家と共にあった。この哀れな姿を見てくれ」

ファンフィンに引っ立てられ、泣き出しかねないホルヘブに、ダディラ王は苦笑する。

「気の毒に思うが、助ける事は出来ぬ。未来のタングフェルタ妃に弓を引いた愚か者よ」

王が手を上げると、騎士が二人、ホルヘブに詰め寄る。

「僭越ながら、彼は、私に処刑させて頂きたい」

ナウジャはしばらく考えていたが、

「いいでしょう」

と、頷いた。

処刑執行……。

再びナウジャ女王の前、ダディラ王の両側、膝をついていた二人が立ち上がった。

一人は冷え冷えとした紫紺の髪と瞳の若い男、もう一人は仮面をつけ、赤い髪を束ねていたが、男のようだった。

二人はナウジャに見入っている。

「さて、貴女への真摯な気持ちを表して、召使を二人贈ろう。いずれも働き者だ」

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