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主〜aruji〜  作者: 宙華
15/20

第二章〔8〕 /…火口の砂漠と都

「わー大きな穴ねー…」

少女がうっすらと目を開け、ぽつりと呟く。

「底が無い?」

何かが上空から近づいて来る気配がして、リオルは再び上を向いた。

リオルの視界に、半透明な鳥が映る。

鳥の姿が段々と大きくなり、暗い火口の奥に消えて行った。

「道は、この中に続くのね」

「あぁ。ところで、その女の子の事だが…」

背中から、かすかな振動と寝息が伝わって来た。

「大丈夫、薬で眠らせた。ムルスチャのせいかしら、何となく…いい傾向ね」

「よし」

リオルは羽を使ってスピードを調節しながら、見事なバランス感覚で、時折休憩しながら穴を滑り降りて行く。

「下が明るい、衝撃を覚悟しておけ」

リオルは岩壁を蹴ると羽ばたいた。

うとうととしかけていたミラははっと目を開け、リオルの肩越しに下を見る。

「あら、本当。どんな様子?」

明るい光に、目が眩む。

その光の正体は、高度な炎魔法で作られた、本物の太陽を小さく真似たウェエポス・サン(幻鏡太陽)だった。

「見渡す限り岩と、黒砂だらけだ」

と、リオル。ゆっくりとミラは辺りを見回した。

黒々とした岩壁に覆われた広大な黒砂漠。

「ウェエポス・サンか。俺の考えが当たっているなら、都がどこかにあるはずだ」

「都?どんな?」

「山を崇拝する人々が、山と火口を再現して造った都らしい」

「しかし、この広大な荒れ地のどこから探す?砂漠で地図はあまりあてにならないし…って、そもそもここは地図に無いのだけれど」

「火口が今通った入口として…」

ミラはリオルの言おうとしている事を悟った。

「あ、そうかあそこか。1、2、3…全部で5つの山が見える」

「あぁ。あの山がそうかもしれん」

荒涼とした砂漠の所々に、巨大な人のような、幹や枝を動かすサボテン、テレマモが立っている。

鋭い刺だらけの枝を、側を通る生き物の頭上に落として来る。

枝が落ちると、大きな木を倒したような衝撃が走る。

下敷きになれば、まず助からない。

押し潰された上に、全身に毒の刺が刺さり、死ぬ。

「テレマモが生えているわ」

「あぁ…厄介だな」

「どうしたの?」

リオルが睨むように遠くを見る。

「竜巻だ。宙に浮くやつだ」

ミラが何か言う前に、リオルは地上に降り立つ。

ミラもリオルも、ウェエポス・サンに黒点が生じ、広がり始めたのに気付いた。

「もう夜になるか」

「月が無いと困るわね。避難場所も」

ミラが言葉を返した。

暗闇で飛び続け、宙に浮く竜巻に巻き込まれたらおしまいだ。

それは地上を歩いていても一緒だが、テレマモの驚異があるものの、地上の方がまだ安全である。

しかし、暗闇を歩いてテレマモに接近するのも避けたい。

「今日は、もうここを動かない方がいい。お前は背中から下りるなよ」

「えぇ」

ミラは頷いて、付け加える。

「この子を起こすのは、都に着いたらにしよう…。保ってちょうだいね」

数時間後、再びウェエポス・サンが現れた。

竜巻を警戒して地上を行くと、テレマモのトゲが何度も肌に刺さりそうになり、その度に大きく迂回するので、思うように進めない。

だが、幸運が訪れた。

何か巨大なものが通ったらしく、一定方向にへし折られ、潰されて枯れているテレマモが見えた。

「これは、ツァーシャングの通った跡だな」

リオルが呟いた。

ツァーシャングとは、砂漠に棲息する巨大なサメである。

「本当。ただ、道は開けたけれど、危険が更に増えたわね」

確かに危険も伴う。

ツァーシャングと遭遇する可能性があるからだ。

二日目の夜。

ウェエポス・サンが燃え尽きると空気は冷えて霧となり、上から砂漠に流れて来る。

このあたりに生える僅かな植物は、この霧で生き延びている。

砂漠を縦断すること数時間。

段々近づいて来ていた山から、遠くない位置で激しい砂嵐が発生した。

地面に伏して一日経過して、ようやく砂嵐は去った。

目を開けてすぐ、二人は砂ではない固い地面に気付いた。

砂嵐が、砂に埋もれていた都の一部を掘り起こしたのだ。

「見られているな」

不意にリオルが立ち止まった。

「きっと警備兵だわ」

ミラは首にかけている小さい砂時計を握る。

万が一捕われた場合、砂時計は正気を保つよりどころとなる。

都の入口である巨大な門に近づくと、武器や武具、骨が散らばっていた。これは戦いがあった事を示している。

門も含め、都と砂漠の境、山を表現している部分は、何層も黒い石灰岩が積み上げられ、黒コンクリートを流し込んである。

この巨大な建築物には、物体が進む方向を示す力の宿る杖、スアポアと、物体の重さを変える力の宿る天秤、スラクノを使ったと伝えられているが、その二つの製造方法や使用方法は解明されていない。

「来るぞ」

「分かったわ」

ミラはリオルの背から下りた。

暫くして、馬に乗った兵士が数人手に手に槍を持ち、ミラとリオルに向けた。

周囲の兵とは違う兵服の男が、前に出て鋭く言う。

「何者だ!」

二人を取り囲んでいる兵士は皆ピリピリしている。

「我々は中立組織だ。私はミラルファ。セレディン国のナウジャ女王と、風の主の導きで、火の主に会う為に来た」

セレディン?と、兵士達がざわめく。

男はミラルファが示した額に使者の証を認め、女王の書状を確認し、次に、リオルに目を向けた。

「この男は、空の民なのか?」

と、ミラルファに尋ねた。

「はい。こちらはリオル」

男の指示で、兵士達は槍を下ろした。

「警戒が解けた所で、頼みがあります」

ミラルファが、リオルの背から眠っている少女を下ろす。

「この少女を助けて下さい」

ミラルファに抱えられている、衰弱した少女を見た兵士達は、驚いたようだった。

「この子は、ここからそう遠く無い村で保護しました。ひどい火傷を負っています。どうかお願いします」

と、男に言うと、男は頷いて、

「すぐに、治療の手配をしよう」

「私が運びます」

と、一人の若い兵士が言った。

「あぁ、頼む」

男が表情を和らげて言うと、兵士はミラルファ達に向かい

「では、後ほど」

と去って行った。

「ところでミラルファ殿、この都、サンセアシェの事をご存知だったのですか?」

ミラルファがいいえ、と答えると男は驚いた顔をした。

「では、どうやって?」

ミラはリオルにちらっと目をやってから、

「風の主の導きで」

と答えた。

「宜しければ、あなたの名前を教えて下さい」

「私は、アニリョフ隊長に仕えている兵士の一人で、エバソテスと申します」

「女の子を運んだのは?」

と、リオル。

「あれはティライル」

「そうか、ありがとう」

「では、自己紹介が終わった所で王宮へ案内しましょう」

ミラは目を丸くした。

「王宮?」

「旅人は、王宮へ通せと、キンドッシャ王のご命令なのです」

エバソテスの道案内で、ミラルファとリオルは王宮まで出発した。

ミラは、門の内側は暗闇かと思っていたが、上部からちゃんとウェエポス・サンの光が入って来るようになっている。

門から続く道は見る限り一直線に伸びている。

この道に交差して他の道が縦横に走っていた。

サンセアシェに並ぶのは、ウェエポス・サンの光で干したレンガに、パナティヤと言う砂生植物の繊維を使って作る住居だった。

パナティヤを煮ると柔らかくて丈夫な糸がとれる。

その細い糸を二十〜三十センチの太さに寄り合わせるのだ。

また、所々に糸の橋もあり、細い川が通っている。

ミラが驚いて川について聞くと、離れた場所にある眠ったオアシスから水を引き、わずかな水を賢く使っていると言う。

「眠っている?」

「えぇ、水気に弱いはずのテレマモが異常繁殖して、オアシスを支えるアフネスンと言う植物が、テレマモの毒気に当たって眠ってしまい、結果的にオアシスが小さくなってしまったのです」

住居の至る所に、バレフディナと言う、サボテンの筒の中に石を入れて、雨乞いに使う楽器もあった。

「ところで、ここでも戦いがあるのか?翼が無い限り、ここまで辿り着ける国があるとは思えなかったが」

と、リオル。

「あなた方はウェエポス・サンの方角からいらっしゃったのでしょう?あちらから攻めて来られた事はありません。が、反対側が、外へ通じています。そこから稀に攻めて来られる事がある」

「ほう」

「エバソテス殿。火の主の案内人が、どこにいるかはご存じ無いですか?」

「…案内人の安否は不明ですな。しかし、案内人が重要とは思えませんよ。この都の外に出てから、そう遠く無い場所に火の山と呼ばれている山があります。主はそこにいる。普通、山の奥の奥にある火の山に行くには、険しい道を歩けるトカゲウシの一種、リーヌスゴが必要なのですが」

エバソテスはリオルに目を向ける。

「あなたには空の民がついているから、必要無いですな」

「火の山に入る前に、タセンプラ川を渡るといいですよ。ほんの数十センチの川ですが、この川を渡ると飲める水があるところは無いですから」

と、二人のすぐ後ろにいた一人の女兵士が言った。

「それから、エバソテス様は言わないと思いますから私が言いますと、王様はあなた方に頼み事をすると思いますよ」

「頼み?」

「えぇ、王様は長い間オアシスを甦らせる方法を探していました。そしてこの砂漠の植物を研究している学者フイブン氏から、テレマモを枯らす方法を聞いたそうなのです。ただ、普通の人間では到底不可能な方法なので、私達にも教えては下さらなかった。けれど王様は言いました。

『救いは空から来るだろう』

って」

キンドッシャ王は、伝令から二人の事を知り、大喜びで二人を迎えた。

「よく来てくれた」

二人は丁寧にお辞儀をした。

「ここに、外部から来る者は本当に稀じゃ。旅立たれる時まで、ゆっくりと旅の疲れを癒すがいい。…お前達が助けた少女は、この王宮の一室におる。医師には最善を尽くさせよう」

それと、と王は付け加えた。

「二人に頼みがある。話しを聞いて欲しい」

「何でしょう?」

「この都の水源であるオアシスが、危機に瀕しておるのじゃ」

と、王は二人に現状と、現状を打破する為の方法を説明した。

「危険が伴う。だから、協力して頂けるならば、その見返りは大きく用意しよう」

王の視線を受けたリオルは、

「俺一人では無理だが、ミラルファの協力があれば造作もない」

「分かりました、私に異存はありません。明日、協力させて頂きます」

「有り難い」

燃え尽きたウェエポス・サンが再び輝き始めた。

ツァーシャングが砂漠をゆったりと泳いでいる。

蜃気楼を起こすと言う、独特の縞模様が見えた。

だが近付くと、高い所ではあれほどはっきり見えていた縞模様が消えてしまい、代わりにかすかに一本のラインが確認出来る。

ミラが群れから少し離れた地上に飛び降りると、数匹が近づいてくるのが見え、狙われていると感じた。

「まずは火を使って脅すんだったな」

ミラは王から授けられた、炎を打ち出す筒を使い、ツァーシャングのすぐ側へ次々に打ち上げた。

それを確認したリオルは高度を下げ、ツァーシャングを軽く威嚇し、脅した。

そうやってオアシスの方へ誘導する。

炎に怯えたツァーシャングの蜃気楼が豪雨を見せ、テレマモが弱ると同時に、パニックになったツァーシャングがテレマモを幾つも薙ぎ倒して行く。

やがて、眠って黒色になっていたアフネスンが徐々に白く煌めき、オアシスがゆっくりとだが、確実に蘇っていく。

「リオル、やったわ!」

「あぁ」

〜ブログ公開時代のコメント〜


管理人のみ閲覧できます。

このコメントはブログ管理人のみ閲覧できます。

[ 2007/03/24 16:03 ]



閲覧いたしました

初めまして、感想ありがとうございます

非表示設定ゆえ、以上の定型文にて、

感謝表明とさせて頂きますね

[ 2007/04/09 15:27 ] 中華

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