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主〜aruji〜  作者: 宙華
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第二章〔6〕 /…飛行は、今のところ順調だったが…

間もなく町と森との境目に達し、更にその境目を越えて小さい山や湖の上を行く。

旅人や、他に何か動くものが無いか、リオルは絶えず周囲に意識を集中する。

「森の木々の間、所々に人影を発見」

影はかなり小さく、通常ならば発見するのは困難だ。

だが、リオルの鋭い目は決して見逃さない。

「相変わらず、あなたの目は鋭いね」

「月が明るいからな」

眼下にある旅人が通る道は狭く、歩き易いとは言い難い。

「リオルは、この深いプットゥフィーレの森に住んでいた、と伝えられるフバイ族のこと、知ってる?」

「知らないな、教えてくれ」

「私も文献で読んだだけで、そんなに詳しく無いの。かつてここに住んでいたフバイ族は、どんな山とも調和出来る、独特の言語や文化を持っていたらしいけど」

段々景色が殺風景になり、空気は乾いて、ピリピリしている。

ミラがふと、上空を見ると、うっすらと雲が流れていた。

風が吹いているのだ。

鳥は大丈夫だろう。

「山の機嫌を損ねて噴火が起これば、俺達やあの旅人達は、ひとたまりも無いな」

ミラは、水の入った袋を開けようとしていた手を止めた。

リオルが自分の方を向かないのが分かっていたが、頷く。

「えぇ。ヒトの遺体をひどく炭化させてしまったり、ガラスを溶かすほど高温の火砕流が、全てを飲み込みに来るそうだし」

リオルは眉をひそめた。

(父さんや、母さんはどうするんだ)

風の主が用意する、特殊な雲袋に入った様々な種を、一羽一羽運びながら世界中に巻いて行く、神聖な儀式の最中だった。

(落ちた種の袋を拾わなければ)

(一つでも多く…世界に…)

忠告を無視して山に火を放った愚かな小人、テミ族が山の機嫌を損ね、トンジュコ川方面に向かっていた鳥人の一団が、噴火に巻き込まれたのだ。

(お前はヴィオリーを連れて早く行くんだ、火砕流、は…全て飲み、飲み込むんだ!)

両親が生きていた時だ。

(…分かった)

岩石が飛んで来て、言葉が所々途切れる。

(さ、ぁ行って!飲み込まれれば…焼け死、ぬしかないの!)

「あぁ…そうだ」

自分達の進む方向ではないが、ずっと遠くに、一瞬だけ、大きく三方向に走る火砕流が見えた。

万が一あんなのに巻き込まれる状況になったら、うまく警告を運び、大規模な噴火から、人々を守れるだろうか。

「そんな事に、ならないようにしないとな」

所々、地表の割れ目からガスが出ていて、独特の臭いがする。

念の為口を、マスクで覆う事にした。

「適当な場所に下りてくれる?リオルもマスクをして。私はここですぐつけられるからいいけど、あなたは飛んでいるとつけられないわ」

リオルの頭が動いた。

「こんな、薄いガスでもか」

鳥人や獣人は嫌で仕方ないでしょうけど、とミラは苦笑する。

「用心するに越した事は無い。我慢して。ガスを吸い込み続ければ、運が悪いと体内が火傷したり、更に悪いと一瞬で体が炎に包まれて、焼け死んでしまう事もあるから」

そうだな、とリオルは溜息をつく。

「知ってるさ」

「本当は、高度をもっと上げるべきなのかもしれないけど、村や町や、何より人を見落としてしまうから…」

言ってミラルファは、少し小さくなった食料や薬の入った袋を見る。

「確かに、俺の目も万能じゃない。それに色々と情報を集めなきゃならんし…」

リオルは、眼下に流れる風景に目を凝らす。

「あのあたりに」

リオルは黒い木のまばらに生えた、緩やかな崖に降り立った。

地面が温かい。

ミラはリオルに、しっかりとマスクをつけてやった。

「あの黒い木々は」

と、ミラ。

応じるリオルの声が、少しだけくぐもった。

「炭化した木だな…!」

炭化した木の並ぶ崖下に、動く赤い光を見た。

次に大地の振動。

ミミズのようにうねる巨大な体、そして、ペグンズリが赤い目を光らせて向かったその先に、ペグンズリとは違う、何かの生物の甲高い悲鳴。

「あれがペグンズリか…」

「あの赤く光る目は、どれほど見えているのだろう?」

緊張を保った声で、ミラは呟く。

二人の優れた観察眼は、ペグンズリを的確に分析した。

実はペグンズリとヒトは、目の構造において似ていた。

しかしペグンズリは、動かないものを見る事は出来ない。

従って、攻撃するのは、獲物が動きを見せた瞬間だった。

「戦う場合、考えられるあれの攻撃方法は?」

と、リオルの意見を聞く。

「あの巨体を長く動かすには、かなりの体力が必要だ。故に、獲物への攻撃は一回が妥当か。待ち伏せ型のようだから、必殺のな」

「うん。同意。皮膚が厚いそうだから、防御する事には、疎そうね。溶岩が平気なのだし、並の武器ではまず傷を与えられない、と考えておくわ。逃げる余裕があるなら、逃げた方がいいわね」

ペグンズリは、捕らえた獲物を息着く暇もなく、高温の土中やマグマの中に引きずり込む。

獲物の息がある限り引きずり込み続け、周囲に叩き付ける。

が、獲物はたいていは、ペグンズリの攻撃による負傷で死ぬより先に、溶岩や土の熱やガスで死ぬ。

そして息絶えた所で丸呑みするのだ。

「毒や火を吐かないらしいのが幸いだな。ミラ。お前の考えた、奴の弱点を言ってくれ」

「口…しかないだろうな。待ち伏せ型の、あの素早さに対応出来るかは別としてよ。あぁ言うのの口は敏感で、痛みを感じやすいはず。だから、口を使う際は極端に慎重になる。後は寒さね…」

冷系の魔法が使えたらな、とミラは言いながら、リオルの背に乗った。

「答えになってる?」

ミラの問いに、リオルはあぁ、と頷いて、不意に首を傾げた。

「大砲か?」


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