第二章〔4〕 /…火の主の元へ向かう準備
ミラとリオルは空の国を後にしてオボトサと言う町に降り立った。
この町には色々な店がある。先の事を考えて荷物を整えた。
荷物は水に食糧に薬だが、リオル達鳥人は水や酒が主食だし、病気らしい病気も無いのでほとんどミラの分だった。
だが食糧はなるべくかさばらず日保ちのよいものを選ばなければならないので、少々時間がかかった。
やっとのことで準備が整い出発する事になったが、出発する前に二人は街を通る旅人が必ず立ち寄り旅の安全を祈る、と言う教会へ向かった。教会へ来る人は多かった。
祈りを捧げ、教会を出ると一人の男がミラ達に話し掛けて来た。
教会から出てくる人々に次々と声をかけていた男だ。
男の名前はグモーゴと言い、後でここ一帯の大地主ラパルドの使いだと分かった。
彼はミラ達がどこへ行くつもりなのか聞いて来た。
「成る程、これから火の主を訪ねに…」
と言った。
「はい」
するとグモーゴは嬉しそうな顔をした。
「色々とお聞きしたい事があるので、これから屋敷へおいで頂けないだろうか」
と、しきりに勧めた。
ミラとリオルは有り難く着いて行く事にした。
立派な屋敷だ。間もなくラパルドが現れた。
体つきがしっかりした、金の髪と立派な顎髭を生やし、大きな青い目をした四十くらいの男だった。
召使が飲み物を運んで来た。
それを一口飲んで、ラパルドは早速言った。
「ミラルファ殿、貴女は数日前まで空の国へいらしたのでは…」
「はい、そして戻って来ました」
ミラは彼が自分達の事をよく知っているのに驚きながら
「何故それを知っているのですか?」
と聞いた。
だがラパルドはミラの質問に答えず言った。
「風の主に会われましたか?」
「はい、お会いしました。そして火の主の元へ行けと言われたのです」
「実は、ある占い師に、空の主から火の主へ渡る者を見つけなさいと言われ、空の国から来た方がいないか調べておりました」
「成る程、それで風の主の事をご存知だったのですね」
ラパルドは人の良さそうな笑いを浮かべると
「貴女に会って欲しい方がいるのです」
と言った。
「会わせる前にその方についてお話しします。が、その方には深いわけがありますので、絶対他言しないと誓って頂かないといけませんが…」
「分かりました、話さないと誓いましょう」
リオルも彼に向かい無言で頷いた。
「では、お話します」
と言って彼は話し始めた。
「私がスルマ地方で狩りをしていた時ですから4年程前なのですが、初めて異世界の住人と主の水面下の戦いの話を教えてくれたのが、先程言った占い師、バロモと言う男です。何かの拍子にバロモは
『旦那様は異世界と言うものをご存知ですか?』
と言い出しました。
『何だね?』
『この世界の外の世界の事ですよ。異世界の住人は恐ろしい力を持っていて、絶えずこの世界を狙っているそうですよ』
『どうして今そんな事を言うんだ?』
『まだ先の話しですがね、旦那様に少し関わりがあるようなんで…。旦那様はいずれある女性に助けられるでしょう。その女性が困っていたら、力を貸してあげて下さい。商売している時以外の閃きがあれば、金を取らず、本人にきちんと伝える。これが私の師匠の大切な教えなのです』
こんな話しをしてくれたんですが、主や異世界の住人なんぞ雲の上の上な方々ですから一笑に付したんですが、それから3年後、私が水の主寄りのクスーロブと言う地方で、魔物に襲われひどい怪我を負った時でした。偶然、一人の女性がもう一人の供をつれて通り掛かり、私を親切に介抱してくれたのですぐ元気になりました。その人はアーサラと言う名前で、故郷へ帰ろうとする私に
『お願いします、私達をあなたの国へ連れて行って下さい』
と頼み込んで来ました。理由を聞くと身の上話を始めました。彼女はスルマ地方よりもっと北にある小国チェノゾルの姫で、水の主への案内人を務めていたそうです。ところが2年前に王と王妃が姫を連れて、水の主がいる地方一帯の国の王族が集まる会議に出席する為にミッロスヒへ行き、豪華客船プルガカ号で他国の王族と合流しました。行き先は会議に使われる聖なる遺跡レットローデンで、護衛のデティカも同行していました。しかし家来達が突然暴動を起こしたそうです。暴動はすぐ治まったものの、一部の王族や重臣達は何故か人が変わってしまったとか。それから数日後、船に原因不明の火事が起こり、乗客達は食料品と武器をそれぞれのボートに積んで脱出しましたが嵐に遭い、ほとんどの船は沈んでしまいました。姫とデティカの乗った船も沈み、二人は波に掠われたのですが、運良く他の国の砂浜に打ち上げられたのです。デティカが一番に正気に返り、身の危険を感じて気を失っている姫を抱き上げ、岩場にじっと隠れていると暴動を起こした張本人である家来3人が突然…これは信じられない事ですが沖から海の上を歩きながら現れ、砂浜に上がると相談を始めたそうです。
『姫はどこだ?こちらに流されて行くのを見たんだろう?』
と、一人目が聞くと二人目の男は
『そうだが、まぁここに姿が見えないとなると、他の連中と同じく沈んでしまったんだろう…姫が死ねば新たな案内人が現れるから、その者を捕えて仲間にすればよい。今回姫を捕えられなかったのは残念だが、元々の計画は上手くいった』
と言いながら、姫と同時に流れ着いた家来達の口に何かを飲ませながら一箇所に集め始め、
『これで、こいつらも仲間に…』
と言って頷き、
『姫が生きていたらどうする?』
と、三人目が聞くと
『死んでいたら問題無いが、生きていたら捕らえて仲間にする。探す役目は後ほどこいつらに任せよう。焦る必要は無いのだから…』
と、一人目が答えたそうです。男達は家来達が起き上がるのを待ち、彼等を伴って海の彼方へゆっくりと歩いて行ってしまったそうです。話をすっかり聞いたデティカは悪者達が遠ざかって行くのを待ち、途中から意識を取り戻し大体の話を聞いていた姫を連れ、打ち上げられた荷物を持って反対の方向へ逃げ出したそうです。彼女達が私と巡り会ったのはそれから一年後の事です。私はその話を聞き、この一年彼女達を匿っていました」
ミラはラパルドの話しにすっかり引き込まれ、
「そんな事が…」
と考え込んでいたがはっとして聞いた。
「しかし、何故その話しを私達に?」
「後で本人達を呼びますから、直接お話しするとよいでしょう。それまでこの部屋でごゆっくりくつろいでいて下さい」
ラパルドは頷きながら言うと、二人を残して部屋を出た。