第二章〔3〕 /…空の国を後に
「いた…」
兄とミラルファの二人目指して歩きながらヴィオリーは呟いた。
主も兄も詳しい事は話してくれなかったけれど、かなりの危険が絡んでる筈だ。
だから少しでも話したい。最後かもしれないから。
十分距離を取って二人を見つめながらもヴィオリーは胸がどきどきした。
不意に、リオルがこちらを見た。視線がかちあう。
ヴィオリーは思わず胸を押さえた。
ミラが振り返るとヴィオリーが木に隠れるようにして立っていた。
「ヴィオリー…」
ミラが呟くのが聞こえ、慌てて逃げようとするが
「待って!」
と言う声で足が止まる。
二人が近付いて来た。
「リオルに会いに来たの?」
ヴィオリーは素直に頷いた。
「そう…」
ミラは少し考えるそぶりを見せた。
リオルの方を見て
「私、一人でその辺を歩いて来ていいかしら。適当な場所を見つけて寝るわ」
と言った。
空の国には雨や雪が降らないし、年中一定の気温なので家と言う概念が無い。
しかし各鳥人にそれぞれ住む領域が与えられており、勝手に入り込む事は禁じられていた。
ミラのように異国の者は神殿周辺のどこかで野宿するしかない。
神殿周辺の土地だけは自由に出入りする事が許されていた。
「おい」
「大丈夫よ、ここには危険な動物や植物はいないでしょう?一人で色々と考えたいの。明日、ここに集合と言う事にしましょう」
ミラはその場を後にした。
ミラが二人から離れてあちこちを散歩して寝場所を見つけた頃、神殿の入口に続く階段に月の光を浴びて座っている二つの影があった。
リオルとヴィオリーだ。
ヴィオリーは嬉しそうにリオルに縋り付いて色々と話していた。
「俺が国を出てからどうしていた?」
リオルは頭を撫でてやりながら優しく尋ねた。
「私、ちゃんといい子にしていたわ。本当よ」
リオルは頷く。
「聞くまでもなかったな」
「でも、兄さんが何か聞いてくれるのは嬉しいわ」
「気のせいだろ」
「違うわっだって兄さんはあまり自分から話しかける方ではないから…」
「まぁな」
「正直に言うと、私は兄さんが変わってなくて安心したの。それにミラルファ様と一緒なのも安心したわ」
「ミラが…?」
ヴィオリーはうとうとしながら
「あの方なら、兄さんを守って下さると思うから…」
と、言った。
「そうか」
「兄さん、明日には旅に出るの?」
リオルは頷いた。
「それがいいと思うわ…でも、戻って来てね。ねぇ、お願い」
「約束する。だから、もう寝た方がいい」
「平気よ…」
ヴィオリーは眠るのが嫌そうだったが、すぐに眠ってしまった。
そしてリオル深い眠りに落ち込んでいった。
東の空がほんのりと明るくなってきた。
美しい夜明けだ。
リオルは目を開けるとヴィオリーの髪をなでた。
「兄さん…」
ヴィオリーが目を開け、リオルの手に触れた。リオルははっとした。
手をしっかりにぎりしめて来る。
ヴィオリーは溜息をつくと、また目を閉じて手を離した。
リオルは彼女の髪をそっと撫でると体を起こした。
爽やかな風が暗い気分をさらってくれるように感じた。
「ミラを見つけて来る」
リオルは静かに立ち上がると
「また後で」
と心なしか寂しそうにヴィオリーの顔を見つめながら呟いた。
リオルは神殿の側に生えている一際大きな木へ静かに近付いて行った。
木から幕のように垂れた蔦の下で、朝の光を受けて眠っているミラの顔を見ると、リオルは心が和んだ。
リオルは朝の挨拶の代わりに古い歌を口ずさんだ。
それは有名なプラウニと言う剣士が作った『ランビアナ』の一節だった。
ミラが目を開けた。
微笑みながら
「懐かしい」
と答えると軽やかに立ち上がった。
二人がヴィオリーにそろそろ出発すると挨拶をすると、ヴィオリーは体の大きさが三十センチほどで、尾の素晴らしく長い半透明の鳥を差し出した。
「主がこの子を連れて行くようにと」
鳥はミラの肩にとまった。
不思議と重さを感じなかった。
「この子は空気の鳥と言って、風を起こす事が出来ます。それに他の主への道を示してくれます。でも一つだけ注意して下さい、この子は何も食べない代わりに風が無い所に長時間いると消えてしまいます」
「はい、心に留めておきます」
「それともう一つ、全ての主を訪ねるのに成功した方はいるそうです。…今、生きている方も。ですが、主との約束で、それが誰かは言えないそうです」
ミラは驚くと同時に、少し心が軽くなった。
「ありがとうございます、それを聞いて心が軽くなりました」
「こちらこそ。あの、ミラルファ様、兄の事、宜しくお願いしますね」
「えぇ」
ヴィオリーはそれから兄に近付いた。
「…ご無事で…」
リオルは頷いた。
空の国から外へ出るのは、シュナーギーがまた案内してくれた。
〜ブログ公開時代のコメント〜
はじめまして
中華さん、はじめまして、幸田回生と申します。
コメントどうも有難うございます。
小説書きには、エネルギーいりますね。
集中力、根気。
互いに、切磋琢磨して。
[ 2005/11/08 09:09 ] 幸田回生
初めまして!
コメントありがとうございます!
>小説書きには、エネルギーいりますね。
はい、先生の仰る通りだと思います。
>互いに、切磋琢磨して。
はい!頑張ります!!ありがとうございました!
[ 2005/11/08 14:46 ] 中華