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短編集

とどろけっトドロキちゃん!

作者: ゆきびし

『叫べ、轟!』

 仁我の声に呼応して魔槍・轟から赤黒い魔力が噴火の如く溢れ出す。禍々しく荒々しい咆哮が、宗吾達を戦慄の渦に巻き込ませた。

 身体が、動かない。

 弓を引くように轟を後ろに構え、仁我は吐き捨てるように叫んだ。

『挨拶がわりに見せてやるよ! バカみてえな夢を見ているてめえらに、本当の絶望をなあ!』

 空間に対し轟を真っ直ぐ突き刺すと、魔力がより濃くより一層開放され再度雄叫びを上げる。魔力は薄い螺旋を一直線に描き、進む毎に拡大されていった。その姿はまるで、編み目模様のマスクメロンを彷彿とさせる。

 そして、轟音。

『――!?』

 スイカ早食い名人がスイカを食べ切るよりも速く、轟から遥か先数多の建物が一瞬にして崩壊した。距離にして練馬大根三十五本分。値段にして約五千六百円。一本約百六十円とそこそこお買い得である。

 轟の脅威をただ見届けることしか出来なかった宗吾。やがて口を開くと、

『いやあ轟だけに驚きだ』

 まるで大根役者のよ

「ちょっと待って下さい」


 そこで春雨さんの筆は一旦止まるも、また書き始めようとするので今度は武力行使で右手を止める。当然のように春雨さんは気を悪くしていた。

「なーによー。折角筆が進んできたってのにあなたって人は」

「そりゃこっちのセリフですよ。あなたって人はなんで急にとんでもない描写になるんですか」

 私と春雨さんの距離は練馬大根、ではなくすぐ隣に座っているので大変近い。なので物理的にお叱りを与えることも出来るが、仮にも相手は先輩なので口でお叱りを。

「魔槍・轟が敵の手に渡っていよいよ最終決戦! てシリアスな流れだったのにメロンやら大根やらで台無しなんですけど」

 挙げ句の果てにダジャレで締めやがった。なんといってもそれが一番腹立つ。

 春雨さんは微笑んで返す。

「ちょっと緊迫してたからねー。少し和らげないと」

「いやそういう配慮はいらんです。雰囲気ぶち壊さないで下さいよ」

「どこが雰囲気ぶち壊してるっていうの!?」

「スイカ名人に練馬大根がだよ!」

 お互いが叫び、そして溜息をつく。春雨さんはやれやれといった表情を見せ、私の頭を撫でてきた。

「あなたにはユーモアがないのね」

 うっぜえ。

「ともかく書き直して下さい。こんなところにユーモアなんていらんのですよ」

「えー。でもシリアスすぎると読む側も息が詰まっちゃうのよ? メリハリつけないとさー」

「メリハリつけた結果が雰囲気ぶち壊しなんだってば!」

 私達文芸部は半年に一度、趣味で同人本を発行している。それ以外にもちまちま活動はしているが、いまはその同人本に向けて執筆中。部員数人に分けて作品を書き、それを一冊にまとめるいわゆるオムニバス形式の本だ。ただページ数は問わないため、下手をすると辞典並の分厚い本になってしまう。印刷代もバカにならないので部数はごく僅か。回し読み推奨。

 私が挿絵担当、そして春雨さんが執筆担当の二人一組なのだが、こんなふざけた描写じゃ絵に出来ねーよというかしたくねーよ。

「それに、いままでの百ページにはこんなくだらないギャグなかったじゃないですか。思いつきでしょ完全に」

「くだらないとは失礼な! 最後なんて絶妙なギャグセンスじゃない!!」

「それが一番くだらないんだってばふざけんなよお!!」

 二人して息を荒立て、互いに怒りを露わにする。

「もう、叫びすぎよ。周りの人に迷惑じゃない」

「誰のせいだと! それに今日は私達しか活動してないですよ」

 っていかんいかん、私は可憐な女の子。少し冷静になって春雨さんを諭さなければ。

「ともかく、統一して下さい。春雨さんの書く文は味があって私は好きなんですから、無理にユーモア路線に方向転換しなくていいんです」

 そう言うと春雨さんの表情がいつにもまして輝く。ああくそ眩しい。

「まあ! 嬉しいこと言うわね。私もあなたの絵、大好物よ?」

 単純だなあ。そして照れちゃいますよそんなこと言われたら、もう。

 うへへ。

「それじゃあ、書き直してくれますか?」

「ええ分かったわ。明日までには改稿してくるからまた確認お願いね!」

「はい、楽しみにしてますよ」

 そうして今日は時間も遅いので下校。


 次の日。春雨さんが自信満々で原稿を見せてきたので、仕方ないなあと思いながらもわくわくして昨日と同じ部分から読むことに。


『とどろけっトドロキちゃん!』

『キュッピリュゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!』

 仁我の掛け声に合わせてマジカルランス・トドロキちゃんから薄桃色のラブパワーがどばどばーっと溢れ出す。あまりにも愛くるしい魅力的な鳴き声に、宗吾達は悶絶の渦に包まれた。

 鼻血が、止まらない。

 仁我は弓を引くようにトドロキちゃんを後ろに構え、そして唱えた。

『マジカルスマッシュマジカルラーンス! いくぞトドロキちゃん! この夢見がちなおバカさんどもに愛しい艶姿を見せつけてやれ!!』

『キュッピリャァァァァァァァァァンッ!』

 トドロキちゃんを前に突き刺すと、なんとびっくり柔らかなラブパワーがより一層増大し、またもや悶絶必至の甲高い轟きを上げる。ラブパワーは網み目模様のマスクメロンのごとく螺旋を描き、打ち上げ花火みたいに一気に広がり弾けていく。たまや、かぎや!

 そして、暴走族もびっくりの爆音。トドロキちゃんには似合わない、重く破壊された音。

『――!?』

 ミカン丸呑み名人がミカン丸呑みするよりも圧倒的に速く、そして宗吾が瞬きしている間に、なんと一瞬にして結構遠くのとにかく沢山の建物が消えてしまった。距離にして練馬大根三十五本分。値段にして約七千円。一本約二百円とやや値上がりされ、不景気の波を八百屋で実感することになる。

 トドロキちゃんの不慣れながらも精一杯の頑張りを見守ることしか出来なかった宗吾。やがて片手で後頭部を抑えながら口を開くと、

『いやあ~参った参った。トドロキちゃんだけに驚きだあ』

 まるで大根役者のよ

「ユーモア路線の方に統一してんじゃねーよ!!」

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