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可愛い君の【アディ】

 少女の大きな目が見開かれて、あ、初めて見る表情だな。とどこか冷静な自分が喜ぶ。体が大きく震えて、それが驚きによる物だろう。そのまま立ち上がろうとしたのだが、その途中でかくりと少女の体勢が崩れた。そしてそのまま頭から後ろに倒れてゆく。

 右手が握りしめられていて、もしかしたら彼女の方は自分が見られない何かがあったのかもしれない。受け身も何も無い倒れ方に、思わず声が出る。


「ちょ、大丈夫か、君!」


 鏡に近寄って見下ろすと、少女は床に倒れたまま起き上がれないようだった。片腕がそろりと動き、頭を守るように動く。それからもぞ、と最初に動き出したのは一番近くに見えている両脚だった。


「っ!」


 深い青の膝丈のドレスから伸びる両脚がもぞもぞと動き、ゆっくりと膝が立てられていく。起き上がろうとしているのは分かったのだが、その扇情的な情景に、声も無く唯見入るしか出来なかった。

 滑らかな象牙の肌が日光を浴びながら膝が立てられていくその過程で。当然ながら、短いズボンの時に見た、足の付け根に近い部分が徐々に露わになる。

 どくどくと心臓の鼓動が五月蠅くなるけれど正直股間も熱を帯び始めていて、いけない、と理性の部分が警鐘をならす。しかし目を離せる訳も無い。

 あの時はあまりにも自分の常識とかけ離れた格好だったから、どこか冷静に見れたけれど今日はいけない。着ている装束は自分の見慣れたものに似ていて、だからこそ具体的にその肌の柔らかさや隠された場所まで想像してしまうのだ。

 そのまま目を離せないで居ると、薄く開いた足を支えにして両腕を後ろについて少女が体を持ち上げた。そして。

(え、えええええええええ?!) 

 彼女はこちらが見えているようだった。こちらを呆然と見詰める視線に見返すことしか出来ず、お互いに暫く見つめ合う。

 うそだろう。どうして今突然お互い見えるようになったのだろう。何か前兆があったのか?!と目まぐるしく考えてみるものの原因になりそうな行動も、前兆も無かった気がする。

 暫くそうして、彼女の薄く開いた膝が更にその隙間を開けると、そこへ本能的に目が行った瞬間我に返った。いけない。今現在進行形で、非常にまずい状態になっている。

 とにかくまず彼女に膝を閉じて貰わなければ何も始まらないと、伝わるかどうか分からないが名残惜しそうにする両眼を叱責しながら視線を外し、声を掛けた。


「君、その、あ、あらぬところが、見えてしまっているから膝を閉じてくれないか?」


 あらぬところ、と自分で口に出して、改めて脳裏に甦る情景に顔に熱が集まるのが分かる。それから暫く待って、そろりと視線を彼女に戻すと残念ながら膝は閉じられていなかった。飛び込んでくる魅力的な情景にさらに顔が熱くなるのを感じながら、そこで漸く相手の音が聞こえないのだから、自分の音も聞こえてないのでは無いかと気がついた。顔を背け、仕方ないので彼女へ指を差す。これで頼むから分かってくれ!という気持ちで。

 先程よりも時間を掛けて顔を背け、そろそろいいか・・・?と彼女を見ると膝を閉じて座り込んでいた。通じて良かった、とほっとする反面、その耳からうなじに掛けて真っ赤に染まった様子に恥ずかしがらせてしまってもっと早く教えれば良かったとかわいそうになる気持ちとそんな様子も可愛いという気持ちがせめぎ合う。まぁ余裕で可愛かったし眼福だったんだけれど。

 目線が合わないのを良いことに、今までで一番近くに来た彼女をじっくりと見させて貰った。

 そろり、と彼女が顔を上げる。それから、こちらに何か話すみたいにぱくぱくと小さな唇が動いた。

 思わず後ずさってしまったのだけれど、仕方が無いと思う。ずっと、ずっと想像の世界でだけだった、俺を見る漆黒の両目。それが今現実になっているのだから。

 呆然と彼女を見ていると、彼女はきょとん、と不思議そうに首を傾げた。それからぺこ、と軽く頭を下げる。

・・・挨拶されたって事かな?

 少し考えて、こちらも礼を返す。だけど、まだ夢の中みたいに気持ちは浮ついたままだった。


「き、君、俺が見えるのか?」


 彼女はまた不思議そうにして首を傾げる仕草をする。聞こえてないんだろう、と分かったけれどなんだか悔しくて続けて声を掛ける。


「君は、この鏡の事を知っているのか?」


 鏡に近付いて、叩く仕草をしてみたのだけれど、彼女は首を傾げて鏡に近付き同じように鏡を叩く仕草をした後何か喋っているようだった。それから耳に手を当てて胸の前で両腕をクロスさせる。聞こえない、という事だろうか。多分、そう言いたいんだろうと見当をつけた。けれど。


「俺はアドルファス。アドルファス・ロッドフォード。君は誰なんだ?」


 せめて、名前だけでも。そう思ったけれどやっぱり通じなかったらしい。彼女はちょっとだけ不満そうに、へにょ、と眉を寄せてまた胸の前でクロスする仕草をした。

うん。可愛い。

・・・そうじゃなくて!

 彼女を見つめたまま悶々と心の中で葛藤していると、首を傾げたまま俺の目を見つめて、ひらひら、と手を振った。


なんかもう。


ああ。なんかもう。


心臓を打ち抜かれるような衝撃だった。


その後また鏡が只の鏡に戻るまで、俺は一縷の望みを掛けて必死に彼女に話しかけるのだった。


□◆□


次の週も、その次の週も。

鏡が向こう側を映す前は緊張した。

また、彼女は俺を見てくれるだろうか。

また、彼女は俺に笑い掛けてくれるだろうか。と。


 彼女はそんな俺の気持ちを知るわけが無く、毎回様々な本を俺に開いて見せてくれた。二回目に俺も自分の名前を書いて見せてみたのだが、凄く変なしかめっ面をされた。それはそれで可愛かったけど伝わらなかったのは悲しかった。

 どうやら俺との共通点を探したいらしく、精密な絵を次から次へと開いて見せてくる。


「うーん・・・ちょっと違うけど、似たようなのは、ある、か?」


 頷いてみせるとそれまでじっと俺の様子を伺っていた彼女が途端花の蕾が綻ぶような、ふわりとした笑みを見せる。

 その度俺の胸がキュンと俺らしからぬ可愛らしい音を立てるわけだが、何かもう、それすら幸せとかどうした俺。

 俺がじっと見つめるとそれに気づいた彼女はあちこちに視線を泳がせて、それからもう一回俺のほう見て。

 恥ずかしいのか頬を染めて、はにかむように笑う。


ああ!!もう!!


最初は見てるだけでよかった。

相手が気づいてくれたらいいな、なんて思ってた。

だけどどんどん欲深くなるんだ。


今は、触れたいと思う。


俺が彼女の頬に触れたら彼女はどんな顔をするだろうが。

頬に触れて、肩を抱いて。抱きしめたなら。


恥ずかしがるだろうな。

---それでも、最後には笑ってくれるだろうか。


彼女の微笑みに自惚れでない彼女からの好意を感じてそんな事を夢想してしまう。


彼女が次の本を開いて見せていた。

それをじっと見て、今度はしっかりと頷いて。

嬉しそうに笑う彼女を、心から愛おしいと思うようになっていた。




アディが可愛い可愛い言ってますが、主人公は平凡な日本人女子をイメージして頂けると幸いです。好みドストライクだっただけ。

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