ゾンビVS人間
勢いだけで書いた。質は土下座しなければならないほどのもの。すいません、本能の赴くままに書いたらこうなりました。
2XXX年、人類は資源の枯渇よりも、エネルギーの枯渇よりも、水不足よりも、大きな驚異。そう、ゾンビ化ウイルスの感染によりかつてない危機にさらされていた!
突如として始まった全人類にとっての悲劇。それはアメリカのある都市で起き、政府の封じ込めとして投じられた核や気化爆弾による消毒滅菌作戦も虚しく瞬く間に北米大陸を感染大陸と化し……感染者はパナマ運河を越え南アメリカ大陸へ。ゾンビの脅威から逃れるためにユーラシア大陸、またはオーストラリア、果ては日本などの島国へと逃げた人々の中には未発症の保菌者が当然のように居て、世界的大流行を引き起こした。その被害はかのスペイン風邪やペスト、新型インフルエンザ、進化の果てにあらゆる抗生物質への耐性と、健常者への強い感染力を持つようになってしまった|メシチリン耐性黄色ブドウ球菌《MRSA》の大流行さえも凌ぎ、世界人口の七割に感染し、その全てが死亡。残された三割も瞬く間に目減りし、残された人々は絶望の中絶滅を待つしかなくなっていた。
かと思われたが、現実は少しだけ違った。多くの人類は希望の一切見えない絶望の中に沈んでいたが、ほんの少しの勇気ある者たち……捕食者と呼ばれる者たちは違った。その捕食者たちの生活を、ほんの少しだけ垣間見てみよう。
「ヒャッハー! 逃げるゾンビは食料だ、逃げないゾンビはよく熟成された食料だ!! ホント都市部は食料の宝庫だぜ!!」
一般の車、とはどう見ても思えない、装甲をあちこちへこれでもかというほど貼り付けられ、バンパーであった部分には鋭く、そして血で濡れて赤黒く光を反射するいかにも凶悪な棘が何本も溶接され、車の天井部分にはアメリカ製の軽機関銃であるM60が設置されている車が数台。それをゾンビの集団めがけて、相手が元人間であることを忘れているのか気にしていないのか、容赦の欠片もなくぶち込んでいる人間が、車の台数と同じ数。ちなみにここは日本である。なぜ日本にそんな物騒なものがあるのかというと、ゾンビウイルスの流行が始まる前には日本は中米のクッションとして、いつ中国の人民解放軍が攻めてきてもいいようにと大量の武器弾薬が在庫セールのごとく自衛隊へと売りつけられていた。本当は戦争が始まると期待して作りすぎた大手銃器メーカーが、いつまで経っても戦争が始まらないのでアメリカ政府に泣きついたところ、全て買い取って一割増程度の価格で、日本へ売りつけたからである。だから自衛隊の武装が飽和状態となり、武器の保管庫がいっぱいになってしまった。そこへゾンビのパンデミックが起こり、鎮圧に向かった自衛隊の内少なくない数が犠牲になった。その犠牲になった自衛隊の装備を失敬して使っているのである。
本来警察などがまともに機能していれば捕まること間違いなしなのだが、この世界ではやけになって略奪などを行う輩が多くなり、各地に点在する中規模の集落内の治安を保つのに精一杯なのである。捕食者たちの略奪対象はゾンビ限定なので、人類種の敵を減らしている彼らが捕まることはない。軍隊並みの装備を整えている捕食者たちをせいぜい拳銃くらいしか持っていない警察が捕まえるというのも無理な話だが。
「汚物は消毒だー!」
今度はガソリンと灯油をいいくらいの比率で混ぜ、布で蓋をした火炎瓶をゾンビの群れへと投げ込む捕食者が。そんな風に使うのなら今日の暖房に困っている集落のおじいちゃんおばあちゃんに使わせてあげればいいのに。と言うのは野暮である。彼らは捕食者。被捕食者という立場から捕食者へと進化することを選択した、いわば新人類。だが、稀に余った燃料を分けたり、狩りに出ない日には警察の手伝いとして集落の見回りをしたりするくらいの良識は持っている。人間には優しい捕食者たちだ。
それでも常人から見れば恐ろしい化物のように感じられるかもしれない。得体のしれないゾンビを狩り、それを食べてもなんともない。もしかすると、ゾンビのウイルスは経口摂取で人間の交感神経を興奮させ、不安や恐怖をかき消す効果があるのではないかと唱える学者も居るが、ウイルスは口から入れば胃酸に耐え切れずに死亡するし、熱でも死ぬのでそんなことはない。
「今日の夕食はー!?」
「ゾンビのミンチでハンバーグってのはどうだ!」
「いいな! それで決定だ。さっさと終わらせて帰ろうぜ!」
ゾンビを豚に変えれば普通の会話。なのだが、殺戮真っ最中なのと、料理の材料がゾンビで確定なので、その会話にはこの世界の狂気の片鱗を感じさせられる。まあゾンビの肉はウイルスに感染した結果旨みを感じさせるアミノ酸が増えて割と美味しかったりするらしいのだが、今している荒っぽいやり方では腸が破れて糞尿と肉が混じってしまう。肉にするには単体で行動中のゾンビに車上から網をかけて捕獲し、頭を潰して動かなくなってから肉にする。または数が少なくなってきたところで頭だけを撃ち抜いて、動かなくなってから血抜きして肉にする。まるで肉食獣の狩りである。
ちなみにゾンビだが、別に死んでいるわけではない。ウイルス感染者全員に言えることだが、このウイルスは神経細胞に好んで寄生、増殖するため、脳をやられて自我が消滅し、理性も消滅。食う寝る犯すという獣と同然の存在となる。腹が減っている状態でゾンビに生きている人間が見つかれば、食われる。腹が減っていなければ犯されてから他のゾンビに食われる。というわけで動いているゾンビの肉は腐っておらず、映画のように血色が悪くなったりはしていない。あちこち齧られて骨がむき出しになってたりするのは珍しくないが。むしろ傷が少ないほうが珍しい。あと、間違っても傷が少なくてついでに顔がそこそこ綺麗なゾンビだからといって、押さえつけてお仮想などと考えてはいけない。過去の捕食者の一人がそれをやって感染し、ゾンビの仲間入りをし、都市の掃除に出かけた他の捕食者に撃ち殺されたことがある。捕食者たちは皆モヒカンなので、区別は簡単だったらしい。
「逃げるなよ、MY MEAT!」
「昨日の飯はゾンビ肉、今日の飯もゾンビ肉、明日の飯もゾンビ肉。たまには魚が食いたいぜ。今の季節なら鰤が美味いんだがなぁ。おっとジャムった」
釣る人間も運ぶ人間も居ないのに、そんな上等なものがあるわけがないのである。彼らにとって最高の贅沢は海の魚を食べること。だが主な活動地点は陸地だし、欲しいなら釣らなければ手に入らない。しかし彼らには釣りをする技術も、釣りに行くための船も、釣れる場所も知らない。とてもじゃないが無理な話だ。
そう言いながらゾンビを虐殺し続ける。機銃が弾詰まりを起こしたので、今度は連射式のグレネードランチャーを持ち出して撃ちまくるある捕食者。捕食者というよりも虐殺者の方が似合っている。
「あ~、それはわかる。何年か前までは嫁が鰤の照り焼きを作ってくれたんだがなあ……まともな食物もってこいって最近うるさいんだよなぁ……ゾンビ肉だって立派な食料なのに」
「新鮮な肉なんて、今の時代ゾンビの肉くらいしか手に入らないのに贅沢を言うなってんだ。食物を選り好みしてこの先生きのこれるわけがないのに」
「そこらで狩った猪の肉とでも言えば食うんじゃないか?」
「猪のはずなのに猪の味じゃない謎の肉。気付くやつは何人居るか」
「猪肉なんて食べたことあるやついるか?」
その言葉に誰もYESと言わない。黙ってそれぞれの得物でゾンビを虐殺し続けている。それはそうだ、彼らは現代人。親戚に猟師を持つ人もごく僅かには居るだろうが、ほとんどは元会社員なり元学生。猪を食べたことのある人はほとんど居ないだろう。よって猪肉として食べさせても誰も気づかないという結論に至ってしまった。
「まあ、皆が普通の肉を食いたいって気持ちはよくわかる。そのために俺たちが頑張ってゾンビを狩り尽くさないと」
「それまでは我慢してもらうけどな!」
「ヒャッハー!」
翌日から、集落では猪の肉と称されて売られる謎の肉の消費量が跳ね上がり、多くの人間がカニバリストとなってしまった。しかし幸か不幸か、それに気付く人は全く居なかった。
捕食者たちの仕事に、ゾンビ肉の安定供給が追加された。その仕事は、ゾンビをこの世から絶滅させるか、人類が絶滅するまで続くだろう。多くの人が捕食者となればゾンビは人類の勝率は上がるのだが、なかなかそれも難しい。
捕食者達はゾンビを倒し、人類を救う大事なお仕事をしています。しかしながら、捕食者がゾンビを狩り尽くすには数が圧倒的に足りません。しかし、一人でも捕食者が増えればそれだけ早くゾンビはこの世から借り尽くされます。さあ、あなたも人類を救う英雄の一人となってみませんか? 今ならもれなくM14と弾薬がついてきますよ。