冬の怖い出来事
これは私がある冬の日に体験したみのけもよだつ出来事です。
当時18歳だった私は新聞奨学生をしながら専門学校に通っていました。
新聞奨学生とは新聞配達をすることによって、学校に通うための援助をうけることが出来る制度のことです。
私は毎日、決まった区域の新聞を自転車を使って配っていました。夏も冬も汗を流しながら頑張って。
しかしその区域に怪しげな不陰気のマンションが1件あったのです。そこは人が住んでいる気配が全くない所でした。
私はそのマンションに一部だけ新聞を配達していましたが、いつも誰もいないのになにかの視線の様なものを感じていました。
そんなある日、私は学校の授業で少し帰るのが遅くなり一時間程配達するのが遅くなっていました。
その日も普段通りに配達を続け、あの例のマンションに到着しました。その季節、冬だったので時間はまだ五時頃でしたが夏に比べて外は真っ暗でした。マンションの電気は一切ついていません。そんな中、いつものようにマンションに入り階段を上ります。階段を上るたびに嫌な気配は強くなっていきました。そしていつもの階に到着し新聞を配達します。
その時まではなにも起こりませんでした。
そして上ってきた階段を今度は下ります。その時階段の途中で、なにかの視線を感じ立ち止まりました。誰もいないはずなのに……。ふと、そう思いましたが気のせいだと考え、再び階段を下ろうとしました。その時です。
「ねぇぇ、一緒に死なない?」
上の方から声が響きました。
はっと背筋に震えが走り上を見あげるとそこには首だけが天井からぶら下がっていました。女の首が。私はこれはヤバイと思い一目散に逃げ出しました。背後から首がずっと追い掛けてくる気配がしてその間一度も後ろを振り返る事はできませんでした。そして自転車でやっとの思いで配達所まで逃げ帰ると、そこで何があったのか配達所の人に説明し、その日だけは残りの新聞を他の人に配達してもらいました。 翌日、配達所の所員さんにその例のマンションの一室に行って異常がないか確認してもらいました。そうしたら、新聞を配達していたマンションの一室でそこの住人が一人首つり自殺をしていたそうです。私が配達に行った時にはもう死んでいたのか、いなかったのか。
私はその後、配達をしばらく続けましたがあの時の様なことは起こりませんでした。ですが毎晩うなされ、学校の授業に全く身が入らなくなってしまいました。それが原因で私は新聞奨学生を辞め、普通の会社に就職することに決めました。
私の配達していた地域では自殺する人が多いそうです。それは、人生に絶望したのか、自分の将来に希望を見い出せなかったのか。自殺した女性の部屋からは遺書等は一切発見されなかったそうです。なぜ自殺をしてしまったのか。結局分からずじまいだそうです。
ご覧いただき誠にありがとうございました。これはフィクションですが、一人でもこの話を想像して怖いと思って頂けたら幸いです。