5.廃鉱の死闘 その3
自分に小憎らしい一撃を浴びせたのち、後方へと退く敵に対し《ダークライダー》は配下の骸骨戦士を差し向けた。すると相手は、自分を挑発したにもかかわらず先行した配下たちとの接敵にその注意を向ける。
舐められたものだと、《ダークライダー》は相手の虚を衝いて返礼の一撃をお見舞いした。
ジャックは引き伸ばされた時間の中に在ってカッコの警告を耳にした。目の前で砕け散る〈障壁〉の残滓が網膜に映ったかと思った次の瞬間、《ダークライダー》が投じた長剣はその豪速でもってジャックの頭部を破壊する。
しかし、長剣の飛行姿勢は〈障壁〉の抵抗によりそのバランスを欠いていた。長剣は本来の狙い通りにジャックの頭部を貫くこと能わず、前頭部及び脳本体を損壊しただけにとどまる。
自らの破砕をもって最後の抵抗をなした頭蓋骨に弾かれると、獲物を捉え損なった長剣は坑道の脇へと空しく転がった――
視界が暗闇に閉ざされた中、ジャックは冷酷な女神の言葉を思い出す。
『命を失わない限り倒れることの許されない異形』
なるほどこう言うことかと思い知らされる。
この世の真っ当な人間であったならば、自分はこの一撃で死んでいたはずだ。たった今ジャックが食らったのは、そういう致命的な一撃だった。
だが今現在、視覚をはじめとした感覚こそ奪われているものの、自分はこうして思考している。
たかだが頭部を破壊されただけでは死ねない。
自分はそういう存在になってしまった。
おそらくこれが、心臓や頚動脈と言った人体の他の急所であったとしても結果は同じだったろう。
そう、この程度では《偽神》を斃すには足らない。
《偽神》を正しく滅ぼすには、この世の器たる肉体を徹底的に破壊するか、存在の源たる『この自分』という意識を完膚なきまでに打ち負かし、痛めつけ、その意気を挫くしかない。
暗闇の中において、ジャックはそう理解した――
結論から言えばタリアが交戦前のおまじないの様に掛けてくれる〈障壁〉がジャックの損傷をごく軽微にとどめてくれた。《ダークライダー》が投じた長剣はジャックの頭部を刺し貫くことができず、その結果として異物の残留を免れた彼の身体の修復を容易にした。
こうして《偽神》の器はタリアの魔法により速やかに回復される。
ジャックは刹那のブラックアウトから復帰すると、仲間と共に殺到してきた敵を迎え討つ。
その認識に断絶もない。
この世に再現された《偽神》とは、かくも非常識な存在だった――
「なんとも呪わしい話だな!」
ジャックは《偽神》のでたらめさにそう毒づきながら、目前の骸骨戦士に〈威圧〉を浴びせかけた。
タリアがこのタイミングでジャックに回復魔法を唱えたのは、その『死』に気づかなかったからに過ぎない。気づいていたならまた別の対応をしたはずだが、いつもの備えとわずかな幸運がパーティーの守護神の速やかなる復帰へと繋がった。
ジャックの背後にあって《ダークライダー》の投じた長剣が彼の頭部を掠めたと見てとり、その出血量に恐れをなしたタリアは高位の回復魔法を施した。
実際には掠めたどころの話ではなかったのだが、その時の彼女には知る術もない。まさに結果オーライである。
この会敵時において一番肝を冷やしたのはカッコであった。味方が防衛線を形成するにあたり《馬野郎》を警戒していた彼女はジャックに警告を発した本人である。必然的にことの一部始終を見届ける羽目になった。
《ダークライダー》の驚くべき隠し技にジャックの頭部が破壊されたかと思えば次の瞬間には巻き戻し映像の如く回復し、当の本人と言えば気勢を上げて敵へと殴りかかっている。たった今目の当たりにした光景が幻でなかった事は朱色に染まったジャックの凄惨な面が証明していた。
あんな隠し玉を持っていた《馬野郎》にも驚かされたがソレの上を行くタリアたちにも開いた口がふさがらない。
カッコは自分がその身を寄せたパーティーに空恐ろしいものを感じて考えるのを止める。一時は絶望的に見えた廃鉱脱出も、今では至極簡単なことのように思えた。
《ダークライダー》は訝しんだ。彼が敵へと投じた一撃はこの世の人型種の急所を確実に捉えた様に見えた。しかしその敵は僅かに体勢を崩しただけで、今も彼の配下と矛を交わしている。
これは強敵だと、《ダークライダー》は戦意を漲らせた。得物を手離した右手を一振りして替えを呼び出す。彼は新たに手にした長柄の得物を右手でしっかり握りしめると、その腋下で強く挟み込んで地面と水平に構える。《ダークライダー》は突撃の姿勢を取ると己が騎馬を激しく駆り立てた。
周囲より頭数個分も飛び出した巨体を誇るバハムートは二体の骸骨戦士を相手取る中、その頭越しに《ダークライダー》の動向に気づいた。《ダークライダー》はいつか映像で観た騎馬突撃そのままの姿勢でこちらへ突進してくる。いや、狙いはまたしてもジャックか。
(馬上槍? いや斧槍だ!)
自身が大型近接武器を好むこともあって目ざとく気づいたバハムートだが、己の稚気にそんなのどうでもいいがな! とセルフ突っ込みを入れつつ状況のみを簡潔に警告する。
「《ダークライダー》の騎馬突撃!」
ファンタジーMMOで近接職をやってるくらいならこれで気づいてくれと祈る。その合間にも自身が相手取った骸骨戦士の一体を盾で阻み、もう一体に一蹴りくれて押しやる。
こんな手が有効と気づけたのもここまでの交戦で見たクララの足癖の悪さに負うところが大きい。そのクララにしてもタリアのそれに学んだワケだが幸運なことに今のバハムートは知る由もない。
「ジャックに〈障壁〉、〈再生〉!」
タリアの声が響く中、《ダークライダー》は塵埃を巻き上げ怒涛の勢いで突っ込んできた。
バハムートの警告をジャックは正しく理解した。骸骨戦士への応戦を放棄すると方形盾をかざして防御姿勢をとる。
様子を窺っていたタリアの目には、それだけで《ダークライダー》の突進を阻むのは心許なく見えた。《ダークライダー》に対して盾を構えたジャックの左側方を衝こうとする骸骨戦士を、牽制の斬撃でいなして回復に備える。
タリアの剣撃によろめく骸骨戦士の脇を《ダークライダー》は華麗にパスしてジャックに殺到する。巨大な鉄板がたわんだ時のような耳障りな轟音が辺りに響き、《ダークライダー》の突撃により〈障壁〉はまたも一撃で破かれた。
ぐぬぬと唇を噛むタリアの目前でジャックはインパクトの瞬間、盾で穂先を受け流しつつ身体を時計回りに旋回させるとその突撃を右側方へと逸らして見せた。タリアはジャックさんの本職ってスタントか何かだったのかと目を瞠る。
突撃の成果が上がらなかったと見てとった《ダークライダー》はジャックと坑道壁面の僅かな隙間をそのまま走り抜けた。人馬一体の見事な体捌きで回頭してみせると、盾を支える左手も離し斧槍を両手に油断なく構える。先に戦った手負いの《ダークライダー》とはまるで違うその強さにタリアは思わず舌を巻く。
《Decisive War World》はMMOにしてはアクション性も高くモンスターたちの動きも多岐に渡り、相応の歯応えを味わう事が出来たのだがそれ故に敷居を高くしていた。そんなこともあって彼のゲームのプレイヤーはタリアも含め少なからず自分の腕に矜持を持っていた。
――だがこの世界のモンスターは所詮ゲーマーでしかない自分たちの上を行く。
向こうの世界ではせいぜい大排気量バイクくらいしか実際にはお目にかかったことのない一般人にとって、それを優に上回る嵩を持つ物体が同等以上の機動力をもって襲い掛かってくる様は脅威だった。
前衛を突破して自分たちの前に忽然とその姿を現わした強敵に、ボルトとサーラも慌てて後退る。《ダークライダー》が振り撒く殺意に怯み、先の対戦で見せた意気が嘘のように腰が引けている。新品の《ダークライダー》に、タリアが感じたのと同じ様な凄みを見出しているのだろう。
しかし幸いなことに《ダークライダー》の戦意は今もジャックに向いたままだ。思わぬ展開であるがその間も思考とは別に忙しなく周囲の動向を把握していたタリアはこれを好機とも捉える。
骸骨戦士と《ダークライダー》は図らずも分断された。いつものようにジャックに《ダークライダー》を抑えてもらい、その間に他の仲間で骸骨戦士の一群を殲滅するという青図を脳裏に描く。
「《ダークライダー》はジャックさんと回復役のわたしで抑えます。みんなは骸骨戦士を先に!」
タリアの叫びにそれぞれ交戦中の前衛陣、動向を見守っていたカッコが了解の声を上げる。後衛の二人に振り向くとアイコンタクトで応えてくれた。
タリアは視界の端でジャックが応戦していた骸骨戦士の接近に気づくと、振り向き様の〈盾強打〉で跳ね除けた。怯んだところに左肘を振り切った勢いで踏み切り、空中捻りから右足のソバットを叩き込む。《偽神》の膂力と遠心力が生み出した空中からの強烈な後ろ回し蹴りを食らい、骸骨戦士は堪らず転倒する。
「カッコさん、コイツの相手お願いします!」
華麗に着地を決めつつ骸骨戦士を間に挟んだ向こうで自分のお転婆振りに目を瞠るカッコにあとを託す。仰天顔の彼女がそれでも頷いてくれるのを見届けて、ジャックのフォローをするべく振り向く。
目の前ではジャックが斧槍の一撃を防いでいた。渾身の一撃を阻まれた《ダークライダー》がわずかに硬直する。その隙を衝こうとしたジャックを牽制するかのように、《ダークライダー》の愛馬が両の前肢を振り上げる。ジャックはそれを避けるため咄嗟に後退するが己の失敗に舌打ちする。
(こんな乱戦で〈咆哮〉は使わせない)
棹立ちになった巨獣の頭部目掛け、タリアは跳ぶ。
(そっちがゲームに囚われないなら、こっちだってやりようがあるってこと!)
空中から振り下ろされたタリアの〈兜割り〉が巨獣の頭蓋骨を捉えた。
ボルトは接近戦下における射撃にだいぶ慣れてきていた。前衛には気の毒だが彼らが攻撃後に間合いを取るのに合せて、針の穴を徹すように矢を射掛ける。
前の世界の自分ならとてもムリだった思い切りの良さだが、今ここで弓を引くのは強弓を苦もなく操る不敵なエルフ狩人ボルトであり地味な腐女子崩れの独女、中島矢子(24)ではない。
クララが飛び退いた隙を衝いて〈弾幕〉のスキルを放つ。本来は複数の矢を連続的に放つことによって文字通り『弾幕』を形成して面を制圧する攻撃だが、弓職仲間に伝わるゲームテクニック『軸ずらし』を再現して射線を一筋に収斂する。
摩擦熱による赤光をまとって次々と襲い掛かる矢はその狙いを過たず、骸骨戦士の骨格を確実に捉えた。〈弾幕〉スキルの放つ矢はその一本一本が目標の移動力を奪うことを目的としていて重い。そんな矢を幾つも間絶たなく食らい、骸骨戦士が衝撃にその身を躍らせた。
ボルトの目の前でクララが勢い良く斬り込んで行く。剛の剣が閃き骸骨戦士はその身を粉砕されると地面に散乱した。
カッコは突き出された槍を体捌きでかわすと長剣による〈強打〉を叩きつけた。
(――動けてる)
アライアンスが壊滅した戦いやその後の逃走時は無我夢中だったが、今は落ち着いて自分の技を制御できている。自分がこの世界でもちゃんと戦えると言う事実はカッコに勇気を与えてくれた。
助けられて後、カッコは戦いに身を投じる必要がなかった。彼女を助けた一行は立ち塞がる敵を自分たちの力だけで排除してのけた。カッコはそのことに安心しつつもジャックの、あるいはクララの戦いぶりを観察し、イメージトレーニングを行って自分の牙を研ぎ直していた。
そしてついさっき目の当たりにさせられた少女の戦いぶりが、自分の闘争心に火を点けたのだと気づく。
(怖いのは当たり前だ、でも前に出ろ)
刹那の思考の後に〈強打〉によろめく骸骨戦士目掛け、更に追い討ちをかけるべく接近して左体側を押し出す。流れるように左肘を突き出し格闘スキル〈肘撃〉を食らわせると敵の身体が冗談の様に宙に浮いた。
(こっちの地力はおまえたちを凌駕してる!)
隙だらけの骸骨戦士に剣先を向け、カッコは渾身の突きを放った。
クララとカッコによって二体の骸骨戦士が斃されると、戦況は怒涛の如くパーティー側に傾いた。バハムートはサーラの使う足止めや威力こそ低いものの曲射軌道を描く攻撃魔法の援護を受けて二体の敵を良く抑えていた。そこに三人の火力職が加わる事により残る骸骨戦士も瞬く間に掃討された。
《ダークライダー》は二人の難敵と対峙しながらも自らの配下が全て討ち取られたことに気づいた。立ちはだかる目前の二人と同等の技量を持つ者たちを五人も相手にするのでは配下たちでは荷が重かったろう。自分も愛馬の首を獲られている。
――面白いと思う。『自分』をこの世へと遣わせた狂える冥王に感謝を捧げつつ、《ダークライダー》は愛馬に牽制を命じた。
頭部を失った不気味な巨獣が、前肢を浮かせると蹄を振りかざした。ジャックの目の前でタリアがそれを盾で受けてみせる。
そして本命の斧槍がきた。左上から振り下ろされる強力な斬撃を受け止めてみせるとその斧頭が驚くべき速度で引き戻される。次の瞬間、右隣で蹄の一撃を防いでくれたタリアの姿が出し抜けに消えた。
背後で響くサーラの悲鳴を聞きながら、タリアは右下方より抉り込む様に打ち上げられた斧槍の石突に打たれたのだと理解する。引き戻される石突を目の端で捉えたとみるや、余所見をするなとばかりに再び斬撃を浴びせられた。
(これほどとはな)
生きて帰れてたなら周知せねばならないと、ジャックは《ダークライダー》の強さに畏怖すら覚える。
「加勢する!」
タリアの抜けた穴を塞ぐようにバハムートが起った。その手には《ダークライダー》の斧槍もかくやという長柄斧が握られている。
「斧には斧だ!」
得物を防御役のそれから攻撃用のそれに替え、攻めに注力したバハムートの打撃はその本領を遺憾なく発揮していた。「バハムートに〈障壁〉!」という叫びにタリアの健在も知る。
「まるで怪獣映画だな!」
正面をバハムートに任せ、《ダークライダー》の右に移動して巨獣の前肢を牽制しながらジャックが軽口を叩く。バハムートは《ダークライダー》を睨み据えたまま叫び返した。
「怪獣上等さ!」
二大怪獣の暴風のような長柄武器の応酬は続く。その脇を大剣を担いだクララが走り抜ける。
「総攻撃にゃ!」
クララはジャックの反対に陣取ると《ダークライダー》の左側面を襲った。
クララの〈薙ぎ払い〉を幾度も受け止めた巨獣の四肢もついに砕けた。タリアの入れ知恵を受け根気良くその作業を繰り返したクララは歓声をあげ仲間たちもその光景に沸く。
それは難敵の移動力兼補助戦力を奪ったことによる油断であったかも知れない。《ダークライダー》は膝を屈する騎馬から存外身軽にその身を躍らせると飛び降り様に旋風の様な横薙ぎを振るった。前衛陣はその意表を衝いたタイミングの斬撃を受け損ねて大きく体勢を崩す。
その隙に身構えた《ダークライダー》も、しかし満身創痍だった。すでに一度目の〈冥王雷陣剣〉を放ったその姿は大きく傷ついている。
それでも次の行動は《ダークライダー》が先んじた。バハムートに向け紫電を帯びた斧槍の穂先を突き出す。その軌道は屈んでいるバハムートの顔面にピタリと照準されている。
(これはヤバイか?)
バハムートが迫り来る凶器に覚悟をきめようかとした瞬間、甲高い音と共に頭上を赤熱した奔流が追い越していった。その怒涛のような攻撃を真正面から浴び、《ダークライダー》の突進速度が鈍る。
頭頂部に熱の錯覚を感じつつ、タリアの良く徹る叫びを背にバハムートは長柄斧を振り上げた。その迎撃に斧槍は甲高い音と共に弾かれる。しかし《ダークライダー》は恐るべき膂力と執念でもってそれを強引に振り下ろす。
〈障壁〉がバハムートの平べったい額の上空でその斧頭をしっかりと阻んでいた。
「チェックメイトだ!」
バハムートの叫びと共に繰り出された仲間たちの攻撃が《ダークライダー》に殺到する。パーティーの前に立ち塞がった強敵は、こうしてその動きを永遠に止めた。
《ダークライダー》は敵手たちに惜しみない賞賛の念を抱きつつしばしの眠りにつく。この廃鉱の最下層を侵した《初源の渦》の呪いがある限り、自分という存在は一時的に損なわれてもじきに復活する。
そして、彼の敵が何処かで滅ぼされなければ再び見えることもあるだろうと、《ダークライダー》は好敵手と言える者たちの姿を記憶に刻んだ。
死闘の末に難敵は排した。一行は外念体や《ダークライダー》が残した長剣、斧槍を戦利品として回収するとエレベーターを目指す。逸るカッコやボルトをタリアが制した。
この、いちいち慎重な事の運びがそのあとも続いた幾つもの苦難において自分たちを生き延びらせたと、常にそれとなく自分の主張を通してみせた小さな参謀の姿と共に、カッコはのちのちも思い出すことになる――
一行はできるだけ静穏な移動を試みた末、離れた場所から襲い掛かってくるモンスターとも遭遇することなく乗り場へと辿り着いた。
心配されたエレベーターは健在だった。タリアたちが第七層に訪れる際に使ったエレベーターは貨室こそ待機してはいなかったが操作盤で呼び出すとそれも程なく降りてきた。
「うっわ、コレ実際に乗るとメッチャコワイ」
そう口にしたのはクララだけだったが、粗末な手すり以外はむき出しの貨室に劣悪な乗り心地というエレベーターはおそらくその全員が現代っ子な一行を青ざめさせるに十分なアトラクションだった。
来た時とは異なり、途中の階層で戦う他のプレイヤーの姿は見かける事がなかった。誰もが沈黙する中、ボルトも無言の内に彼らが無事に脱出したことを祈った。
第一層の骸骨戦士相手には端から遠距離攻撃を仕掛けて殲滅した。タリアとクララ以外の備えを持つメンバーたちが一斉射撃によってモンスターを掃討する。
そして一行の進む先に、ついに外の明かりが見えた。廃鉱出入り口のかたちで薄暮の空が切り取られている。
「どうする? 偵察してこようか?」
カッコはジャックの横顔を見上げる。彼は一つ唸ると左右に首を振った。
「外で待ち構えているモノが居るとしたら、多分そいつらはカッコ嬢の隠行くらい見破るだろうさ。ここは固まって行こう」
しばし考えたあと、カッコは思い当たる。
「――ああ、そういうコト」
短く呻くと後続の一行を振り返った。バハムートを除いたパーティーメンバーが、硬い表情でカッコに視線を返す。
「あんたたち、半端ないね」
嘆息するカッコに呑気なバハムートが惚けた顔を返した。
「なんの話だ?」
「外でPKだか盗人が待ち構えているかも知れないからこのまま進もうって話だよ」
バハムートはその言葉に衝撃を受けつつも、理解の色を示しはっきりと頷いた。
実際には範囲攻撃魔法での一網打尽を警戒し、距離を取った上で逐次外へと出た。先鋒を担ったジャックはFPS経験者故かその走りも様になっていた。
結果的に恐れていた襲撃はなかったが廃鉱の外には人だかりが出来ていた。隊伍を戻したジャックたちが近づくと30人くらいからなる視線が彼らを迎える。
「ジャック! 生きてたか!」
人だかりをかき分け、一人の人間族男性が声を上げた。ジャックと似たような年嵩で、その顔つきや年季の入った全身鎧も同じく古強者を思わせた。しかし今はその表情も喜びに綻んでいる。
「ライトニング! お前さん、来てたのか!」
ジャックの声にも明るさが戻った。そうするとパーティーの他のメンバーも隊伍を離れてライトニングと呼ばれた男の周りに集まった。口々に再会を喜び合う。
「ライトニングのおっさん、さっきぶりだにゃ」
「いやそれはおかしいだろバカネコ。めっちゃ待たされたわ!」
彼らの親しげなやりとりにカッコは一人、状況に取り残された気分を感じていた。いつの間にか傍らに立ったバハムートがカッコの肩を叩く。
「ライトニングは僕やジャックの戦士仲間だ、悪い人じゃないよ。他のみんなも知り合いみたいだね」
彼の穏やかな声音を耳にしてホっと一息つく。
「それじゃライトニングさん、情報ありがとうございました。オレたちはこれで」
ライトニングの向こうで人だかりを作っていた内の一人、戦士風の獣人族青年が手を振った。ライトニングは半身で振り返ると「つき合ってくれてありがとうな!」と手を振り返した。人だかりはゲーム的な別れの挨拶を口にしながら5、6人の集団に分かれると山道を去って行く。その彼らも歩きながら盛んに議論を戦わせている様子だった。タリアたちはそれを何とはなしに見送る。
彼らの姿が消え、気を取り直したバハムートが傍らのカッコを紹介すれば「これまた別嬪さんだな!」とライトニングは相好を崩す。ひとしきり挨拶が済むと何気ない風にジャックが切り出した。
「――で。エルクーンで何かあったのか?」
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