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5.「カース・アイテム・ダンジョン(1)」

「コホン。お二人さん、今どういう状況か分かってるかしら?」

「うわぁっ!」


 カカナの声で我に返った僕は、慌ててリンジーさんから離れる。


 必死だったから気にする余裕も無かったけど、よく考えたら、裸で抱き合うとか滅茶苦茶恥ずかしい!


「チッ。余計なことをしてくれたもんだね」

「今、余計なことって言ったわよね!?」

「い~や、別に」


 僕が「えっと、じゃあ、服着るから、その……」とおずおずと切り出すと、カカナが、「分かってるわ」と、頷いて背を向けてくれた。


「貴方も早く鎧を着用しなさいよ、リンジー。勿論、背を向けて、ね。呪いは解けたかもしれないけど、下着のまま帰る訳にはいかないでしょ?」

「ハッ! 別にあたいは下着でも――いや、むしろこのままでも良いんだけどね」

「不審者として捕まるわよ! 露出狂の仲間とか思われたら私が嫌だからちゃんと着用しなさい!」


 僕が下着とズボンを穿いた直後。


「グルルルルッ!」

「がぁっ!?」


 突如どこかから現れたフェンリルが飛び掛かってきて、僕は胸に噛み付かれた。


「「イヴィラ!」」

「……〝キル……アイズ〟……!」

「グァッ!?」


 何とか固有スキルで倒した直後、僕は吐血しつつ倒れる。


「何でA級のフェンリルがB級ダンジョンにいるのさ!?」

「そんなことより! 止血よ!」

「あ、ああ……でも、これじゃもう、止血しても……」

「何が〝もう〟よ!? イヴィラは助かるんだから! 絶対に助けるんだから!」


 目に涙を浮かべながら、カカナが必死に止血しようと、ローブの袖を押し当ててくれている。


 ――心臓が喰われて、大きく抉られた僕の胸に。


 本当に優しい子だ……


 激痛に苛まれ、意識が遠のく中で、僕は彼女と出会えた幸運を噛み締める。


「……あり……がとう……カカナ……でも……大……丈夫……」

「だからだいじょばないって言ってるでしょ!」


 泣きながら叫ぶ彼女を早く安心させようと、僕は〝切り札〟を使った。


「……ディコセバ……さん……助けて……下さい……」

「お呼びですか、坊ちゃま」


 突然目の前に現れたディコセバさんに、「きゃあ!」「うわっ!」と、カカナたちが悲鳴を上げる。


「これは……! 治しますね、坊ちゃま」


 中くらいの大きさの救急箱を手にしたディコセバさんが、何かを呟いた後。


「いつもありがとうございます、ディコセバさん!」

「いえいえ、微力ながらお力になれたならば何よりです」


 僕の胸の傷は回復、元通りになった。


「前も思ったけど、すご過ぎよ!」

「ハッ! 空間転移魔法と最上級回復魔法の両方の使い手とはね!」


 カカナたちが驚嘆する中、「では、私はこれにて失礼いたします。また何かあればお呼びください」と、優雅に一礼するディコセバさん。


「おっと」

「大丈夫ですか!?」


 ふらついて倒れそうになった彼に、僕はちょっとビックリした。

 そんなところは初めて見たから。


「いえ、大丈夫です。御見苦しいところを御目に掛けて大変失礼いたしました。もう歳ですからね。では、今度こそ」


 足下に魔法陣を展開したディコセバさんは、空間転移魔法で消えた。


 ディコセバさんは本当にすごい人だけど、現在中年の彼は、十代の僕には分からない身体の不調とかあるのかもしれない。


「今度、肩叩き券とかプレゼントしようかな?」

 

 僕が何気なくそう呟いていると。


「あ!」


 短い悲鳴が上がって。


「し、知らないおっさんに裸見られたああああああ!」

「今気付いたの貴方? 遅くないかしら?」


 まだ下着すらつけていなかったリンジーさんの叫び声がダンジョン内に響いた。


※―※―※


「ちょっと、リンジー。露出多過ぎじゃない?」

「ハッ! 今までが異常だったのさ。このくらいが丁度良いってもんさ」

「だから、捕まるって言ってんのよ!」

「ハッ! こんなんで捕まる訳ないだろ!」


 ダンジョンから帰ってきた後、これまで顔すらも覆ったフルプレートアーマーを常に装備していた反動か、リンジーさんはやたら露出度の高い鎧に替えた。


 何というか、目のやり場に困ってしまう……


 カカナも胸が大きいんだけど、リンジーさんのは輪をかけて豊満なので……


※―※―※


 その後、僕たちは三人で、何度もダンジョンに潜った。


 B級から始めて、A級、更にはS級まで。


 僕はその間、固有スキル〝キルアイズ〟を更に鍛えた。


 もっと強くなれば、友達の役に立てるし、友達を助けることも出来るし。


 そうしたらきっと、また新しい友達も出来るよね!


※―※―※


 一ヶ月後。


「最近、全然会わないわね」

「ああ。不自然極まりないね」


 冒険者ギルドで依頼書・クエスト書が貼られた壁の掲示板を見て吟味している時に、カカナとリンジーさんが眉を顰めた。


「会わないって、誰と?」

「えっとね、スプリのことよ。私たちと同じS級の三戦姫なんだけど、あの子はまだ弱冠八歳なの」

「八歳!? すごい!」


 その歳でS級冒険者にまで上り詰めてるとか、どれだけ努力したのか、凄すぎて想像もつかない!


「ハッ! 別々に冒険者活動していたあたいらだけど、基本的に依頼・クエストはこの冒険者ギルドで受ける訳だから、一ヶ月顔を合わせないなんてことは有り得ないのさ」


 うーん、どうしちゃったんだろ?

 まさか、大きな怪我をしちゃったとか、病気とかなのかな?


「あの、スプリさんのことなんですが……」


 話を聞きつけたらしい、受付のお姉さんが、カウンターの外に出て、僕たちに近付いてきた。


「とあるS級ダンジョンに行ったきり、もう五日間も戻ってこないんです」

「「「!?」」」


 他の人に聞こえないようにと小さな声で告げられたその情報は、僕たちに大きな衝撃を与えた。


※―※―※


「何でそんな大事なことを今まで黙ってたんだい!?」


 詰問するリンジーさんに、受付のお姉さんが謝罪する。


「申し訳ありません……。ただ、どうかご理解ください。ソロ冒険者とはいえ、S級の彼女が太刀打ち出来ないような敵、或いはトラップがあるようなダンジョンに救援を向かわせようとしても、そもそも適任の人材がほとんどいないんです」

「そりゃそうかもしれないけど、あたいらは別だろ!」

「はい、確かにリンジーさんたちなら、可能でしょう。でも、御存じのように、二~三日程度なら、ダンジョンにこもる冒険者もいますし、直接冒険者ギルドに戻らずに、他の街などに行った後で戻ってくる人もいますので……」


 受付のお姉さんの言い分も十分理解できる。


 そもそも、ダンジョン攻略は、大怪我をしたりそれこそ命を落とす恐れもある仕事だ。


 帰ってこない冒険者が出る度に救援部隊を出していたら、キリがないのかもしれないし、現実的じゃないのかも。


「お姉さん、教えてくれてありがとう!」


 僕はにっこり笑ってお礼を言うと、カカナとリンジーさんを見た。


「助けに行こう!」

「ええ、勿論よ!」

「ハッ! 本当、世話の焼けるプリンセスだよ!」


※―※―※


 アスバドの西方へ馬車で二時間ほどの距離にあるS級の〝カース・アイテム・ダンジョン〟に向かう途中、カカナたちがスプリちゃんについて教えてくれた。


「スプリは、拳で戦う武闘家で、お姫様に憧れているわ。二つ名は夢想の拳姫ドリーミー・パンチプリンセスよ」

「ハッ! 可愛らしい二つ名だが、あの殴打はエグイよ。ほとんどのモンスターは一発で仕留めちまうんだ」


 どうやら、リンジーさんたちは、スプリちゃんの戦闘を見たことがあるようだ。


「だから、正直、あの子が太刀打ち出来ない相手なんて想像出来ないんだけど」

「ハッ! 案外、甘い味がする新種のスライムでも見付けて、何日もずっと食べ続けてるのかもしれないよ」


 あ、甘党なんだ。

 っていうか、大抵の女の子は甘いもの好きだよね。


 ちなみに、今回も馬車の御者台に三人でぎゅうぎゅうになって座ってる。


 水晶のダンジョンの時はリンジーさんがフルプレートアーマーだったから、リンジーさんの方に寄りかかればカカナさんの胸から逃げられた。


 ……けど、あのダンジョン以降は、リンジーさんがやたらと肌面積が大きい鎧を装備しちゃってるので、どちらにも逃げ場が無くなって、ずっとドキドキしっぱなしだ。


 でも、二人とも僕と仲良くしてくれてるってことだから、嬉しい!


※―※―※


 カース・アイテム・ダンジョンに着いて、水晶のダンジョンよりも広い通路を歩き始めた後。


「っていうか、今更だけど、〝カース・アイテム・ダンジョン〟って、どういう意味?」

「宝箱の中に入っている全てのアイテムが呪われているっていう意味よ」

「じゃあ、〝呪いのせいでスプリちゃんは、帰れなくなってる〟ってことじゃないかな?」

「「あ」」


 ふと呟いた僕の指摘に、二人の声が重なる。


「何でそんな単純なことに今まで気付かなかったのかしら!? それもこれも全部、貴方が破廉恥な格好でイヴィラを誘惑しようとするせいよ! 貴方が暴走しないようにずっと監視してたから気付かなかったのよ! 余計な仕事を増やすんじゃないわよ!」

「ハッ! どの口が言うんだい? 胸を強調するために、最近ローブの腰をベルトでキツく締めるようになったのはどこの誰だったっけね?」

「そっ、それはたまたまよ!」

「じゃあ、あたいの行動もたまたまさ!」


 二人とも仲良いな~!

 

 僕がほっこりしている中、二人の手は〝別のもの〟に対して忙しなく動く。


「ガァッ!?」

「ギャアッ!?」


 A級モンスターであるキマイラが吐いた火炎を無数の氷柱で掻き消すと同時にライオンの頭部と山羊の身体と蛇の尾を串刺しにしてカカナが倒すと、同じくA級のオーガが頭上から両手で振り下ろした大剣を、片手で持った自身の得物で無造作に薙ぎ払い、相手の赤い胴体ごと真っ二つにしてリンジーさんが屠る。


 やっぱり二人ともすごく強い!


「ギィッ!?」

「グォッ!?」

「ガァッ!?」


 巨躯を誇るS級のゴブリンキング、トロール、サイクロプスが轟音と共に振り回す棍棒を真正面から破壊、氷柱で貫き、または跳躍後に空中で一回転、上段から放たれる強烈な一撃で討ち取る。


 が、その間もカカナたちの〝激しい会話〟は続いており、二人の友情を証明すると同時に、類稀な実力を存分に感じさせる。


※―※―※


 難無く進んでいくと、突如、岩で出来た壁の中に扉が現れた。


「これって……」

「ええ。宝箱があるってことね」


 中に入ると、広い部屋になっており、中央に大きな宝箱があった。

 けど、誰もいない。


 慎重に宝箱に近付いていくが、特に何の手掛かりも残されていない。


「スプリちゃんがいないから、外れだね」

「そうね。このダンジョンの宝箱の中身は全部呪われてるから、スルーして――って、何開けようとしてんのよ、リンジー!」


 そ~っと伸ばされた手を、すかさずカカナがピシッと叩く。


「ハッ! お宝が目の前にあったら、その手に掴む。それが冒険者ってもんだろうが?」

「貴方よくそれで今まで生きてこられたわね!? 私や貴方みたいな〝呪いが専門外の人間〟は、魔導具とかでまずは宝箱またはその周辺にトラップが無いかチェック、その上でアイテム自体の安全性も確認して、呪われていたら決して触らないっていうのが定石でしょうが!」

「ハッ! つまんない女だね」

「つまんなくて結構よ! 宝に目が眩んで死ぬくらいならね!」


「リンジーさん、スプリちゃんの捜索が最優先ですよ!」と僕が言うと、「チッ! 分かったよ」と肩を竦め、渋々納得してくれた。


 っていうか、リンジーさん自身が生まれてから十数年間の間ずっと毒の呪いに苦しめられていたのに、宝の呪いを全然怖がらないって、すごいね! 何だか格好良い!


※―※―※


 その後、いくつもの部屋を見付けて、その度に宝箱があったが、スプリちゃんは見付からなかった。


※―※―※


 しかし、とうとうその時は訪れた。


「二人とも、見て!」

「これは……きっとあの子がいるわね、中に。どういう状況なのかは、ちょっと想像がつかないけど」

「ハッ! 随分と派手じゃないか!」


 その扉は、〝帯電〟しており、所々でバチバチと〝放電〟現象が起こっていた。


「イヴィラ、これも何とか出来そう?」

「うん! 放電してくれていて良かった! 〝視認出来るもの〟なら、この間の毒の呪いみたいに、ちゃんと発動出来るよ!」


 僕は、「〝キルアイズ〟!」と、固有スキルを用いて、扉の〝放電〟と共に〝帯電〟も消滅させた。


「行くよ!」

「ええ、お願い!」

「ハッ! 何でも来いってんだ!」


 僕が扉を開けると。


「「「!」」」


 広々とした部屋の中を、数多の〝雷撃〟が縦横無尽に飛び交っていた。


「〝キルアイズ〟!」


 僕たちに向かって飛んで来た三つの雷撃を、固有スキルで消す。


 トレーニングによって〝両目で見た魔法や物体〟を〝同時に複数〟〝消滅〟させることが出来るようになっておいて良かった!


 部屋の中央に目を向けると。


「スプリ!」

「ハッ! やっと見付けたね」


 ピンク色の可愛らしいドレスに身を包んだ、桃色ツーサイドアップの美幼女がいた。


 ただし、蓋が開いた宝箱の上空、二つの魔法陣が放つ円柱形の光の中で水平に〝浮遊〟して、眠っているようだ。


 胸元には上等なネックレスが見えるけど、もしかしたら、あれが宝箱の中身なのかな?


 いずれにしても、雷撃はあの円柱形の光にぶつかる度に弾かれており、あの中には入れないようだ。ちょっとホッとした。


「スプリちゃん! 今助けるからね! 〝キルアイズ〟!」


 部屋中を飛翔する残りの雷撃全てを固有スキルで消すと。


「え!?」

「何よこれ!?」

「ハッ! 二重の仕掛けとは、手が込んでるじゃないか!」


 今度は、いくつもの火柱が出現した。


「〝キルアイズ〟!」


 それらを消すと。


「また!?」

「しつこいわね!」

「ハッ! 絶対に近付けさせないという意思を感じるね!」


 今度は夥しい数の氷の棘が、床・天井・壁から生えた。


 その後も、「〝キルアイズ〟!」と僕が固有スキルで消滅させるたびに、風刃の嵐が吹き荒れ、局所的な洪水が現れて、と、手を替え品を替え妨害してきた。


「……やっと全部消せた!」


 もう何も出てこないことを確認した僕は、スプリちゃんに近付いていく。


 ちなみに、カカナ曰く、これまでのは呪いじゃなくて、あくまで〝宝箱もしくはその周辺のトラップ〟らしい。


「おかしいわね。このダンジョン内にそんなトラップがあるだなんて、聞いたことないんだけど」

「ハッ! 確かに、あたいも知らないね」


 小首を傾げるカカナに、リンジーさんも同意する。


「じゃあ、あの魔法陣が宝物の呪いなんだね!」

「そうなるわね。でも、もしかしたら他にもあるかもしれないわ。気を付けて!」

「うん!」


 僕は、頭上を見上げると、「〝キルアイズ〟!」と、まずは二つの魔法陣を消滅させた。


「っと!」


 久方振りに重力の影響を受けて落下してきたスプリちゃんを受け止める。


 お姫様抱っこした彼女は、灰色の魔力に包まれており、目を覚ます様子はない。


「〝キルアイズ〟!」


 灰色の魔力を彼女の体内から完全に消し去ると。


「…………あ」

「スプリちゃん!」


 彼女が大きな丸い瞳を開いた。


「イヴィ君! やっぱり来てくれたの! イヴィ君は王子さまなの!」


 ガバッと僕に抱き着くスプリちゃん。


「無事で良かった!」

「本当にもう、心配させて!」

「ハッ! 手間掛けさせるんじゃないよ!」


 安堵した僕たちだったんだけど。


※―※―※


「「「わざと呪いに掛かった!?」」」


 三人の声が重なる。


「そうなの! 狙い通りなの!」


 ニコニコと微笑むスプリちゃんは、全く悪気が無さそうだ。


「何やってんのよもう!」とカカナは頭を抱えて、「あははははは! あたいが言うのもなんだけど、こんなことして、あんた頭大丈夫かい?」と、リンジーさんが笑い転げる。


「スプリは大真面目なの! だって、スプリは王子さまに会うためにこの異世界に転生したんだから!」


 仁王立ちするスプリちゃんは、薄い胸を張った。


※―※―※


 スプリちゃんが言うには、現代日本に生まれた彼女は、貧乏な母子家庭に生まれたとのこと。


 極貧生活を送る中で、彼女は、自分とは正反対の存在である〝特別な存在〟――王子さまに愛される〝お姫様〟に憧れるようになった。


 病弱だった母は、生活保護を申請するも通らず、失意の内に衰弱、死亡した。


 まだ幼かったスプリちゃんは、隙間風が吹き荒ぶ真冬のボロアパートの中で、暖房も布団も無く、飢餓で倒れ、低体温症になり、そのまま凍死した。


「スプリは、異世界転生する時に女神さまにお願いしたの! 『すっごく頑丈で強い身体にしてください!』って! だって、またすぐ病気や怪我で死んじゃったら、意味ないの!」

 

 願いが叶い、己の拳一つで戦えるほどの最強の身体を持つ幼女として異世界転生したスプリちゃんは、デコピンで岩を砕けることに気付くと、冒険者ギルドに登録した。


「どの分野でも良いけど、可愛いスプリがトップに立てば、絶対にチヤホヤしてくれるって思ったの!」


 目論見通り、スプリちゃんは「可愛い!」「なのに滅茶苦茶強い!」「ギャップが堪らないぜ!」と、周囲から持て囃された。


「お姫様っぽくはなれたから、あとは王子さまに出会うだけだったの。そんな時、カカナとリンジーが同じ少年に救われたっていう噂を聞いたの!」


 スプリちゃんは、その小柄な身体と恐るべき敏捷性を存分に活かして、僕たちを密かに尾行、その行動を監視していたらしい。


「この人だ! この人しかいない! やっと王子さまを見付けた! って思ったの!」


 それからスプリちゃんは、周到な準備を始めた。


 まずは、お姫様である自分が王子さまと出会うのに最適なシチュエーションとはどんなものだろうかと、真剣に考えた。


 その上で、それを実現するための方法は無いかと、血眼になって探した。


「そして、とうとう見付けたの!」


 それがこのカース・アイテム・ダンジョンだった。


「触ると深い眠りについて、自力では決して解けない。そんな呪いが掛かったこのネックレスは、最適だったの!」


 恐ろしいことをサラリと言うスプリちゃん。


「でも、呪いだけだとちょっと地味だったの。だから、トラップも仕掛けることにしたの!」

「あんたが仕掛けたんかーい!」


 リンジーさんが思わず突っ込む。


「呪術魔法が得意な知り合いに頼んだの! おかげでとっても華やかになったの!」

「アレを華やかと表現するのね、貴方は……」


 カカナさんがげんなりとする。


「ということで、イヴィ君は今この瞬間からスプリの王子さまなの!」

「えっと、僕は王子さまじゃないよ? 公爵家の貴族だし、すごく恵まれてるし、みんなから愛されて幸せだなって思うけど、それでも王子さまとは違うよ?」


 僕の反応に、ぷくーっと、スプリちゃんが頬を膨らませる。


「スプリが王子さまって言ったら王子さまなの!」

「う~ん、でも……」


 「あ、そうだ!」と、何かを思いついたスプリちゃんは、「ふふん」と、意味深な笑みを浮かべる。


「そんなこと言って良いの? スプリ、知ってるの。イヴィ君がたくさん友達を作ろうとしてること」

「!」

「スプリの王子さまになってくれなきゃ、スプリはイヴィ君の友達になってあげないの!」

「そ、それは困るよ! 分かった! スプリちゃんの王子さまになるよ!」

「分かれば良いの! じゃあ、スプリもイヴィ君の友達になってあげるの!」


 スプリちゃんが改めて僕に抱き着く。


 あれ?

 でも、僕はスプリちゃんの王子さまだけど、スプリちゃんは僕の友達って、何かこんがらがって良く分かんないような……


 ま、いっか!


「じゃあ、まずはデートするの!」

「で、デート!?」

「そう、デートなの!」


 お姫様と王子さまだから、デートってこと!?


 でも、スプリちゃんは僕の友達だし、友達はデートしないんじゃ!?

 いや、そういう経験無いから、分かんないけど……


「あはは! デート・な・の!」


 無邪気な笑顔で僕を見上げたスプリちゃんが、再度ギュッと抱き着いた瞬間。


「がはっ!?」


 僕は、腹部を貫かれ、はらわたを喰われていた。


 スプリちゃんのドレスを突き破って彼女のお腹から勢い良く出てきた、鋭い牙が並ぶ口を先端に持つ触手によって。

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